グローバルマーケター進化論 #01

「重要なのはWhyの核心」キンドリルジャパンCMO加藤希尊氏が語るグローバルで進化し続けるマーケターの資質【新連載スタート】

 今、世界的にビジネスにおけるマーケティングの役割が激しく変容している。従来、メインの領域とされてきた広告コミュニケーションに留まらず、企業の価値を伝え、押し上げ、成長にダイレクトに貢献することがこれまで以上に求められる。Agenda noteの新連載「グローバルマーケター進化論」では、厳しさを増すグローバル・マーケティングの世界で進化し続けるマーケターに焦点を当て、海外の法人や市場に対して、独自の価値を発揮するためのスキルや心構えを聞く。

 第1回はキンドリルジャパン Vice President, CMOの加藤希尊氏にインタビュー。WPPグループやセールスフォースといった世界的企業で経験を積んだ加藤氏が重視する「WHY」の核心と、グローバルで勝ち抜くためにキンドリルジャパンで実践する「プライオリティ」と「プロトコル」に基づく戦略に迫った。
 

マーケティング=経営へ


――近年、ビジネスの環境変化に伴い、グローバル企業の日本法人におけるCMOやマーケティング部隊に求められることが変わってきていると聞きます。どのように変化しているのでしょうか。

 まず前提として、本社が米国や欧州にあるグローバル企業の場合は、マーケティングのファンクションが本社に置かれ、日本法人ではそれをエグゼキューションするのみという中央集権モデルがよく見られます。しかしキンドリルでは、日本が北米に続いて2番目に大きな市場を持っているため、日本法人が本社にある程度近い機能を持っており、本社とやりとりをしながら、ブランディングやデジタルマーケティング、キャンペーン、アカウント ベースド マーケティングなどを展開しています。
 
キンドリルジャパン Vice President, CMO
加藤 希尊 氏

 広告代理店と広告主、B2CとB2B両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。外資系広告代理店(WPPグループ)に12年勤務し、2012年よりSalesforceに参画。マーケティングオートメーションをはじめとした10以上のSaaSマーケティング製品の日本上陸を手がけ、2019年からはチーターデジタルの副社長 兼 CMOを務め、AIやクラウドを活用したロイヤルティマーケティングの実現を啓蒙する。 また、国内100社のブランドが参加するマーケティング責任者のネットワーク「CMO X」を創設し運営。著書にその成果をまとめた『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ (翔泳社)と、『The Customer Journey「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説』(宣伝会議) がある。2024年より現職。

 その上で、どのように日本法人におけるCMOやマーケティングの役割が変化してきているかというと、従来、我々のようなBtoB領域に求められてきたのは、ブランディングやその延長としての採用マーケティングのほか、リードの獲得、パイプラインの獲得でした。つまり、ブランドの認知度や好意度の向上に始まり、見込み客の獲得、その予算およびタイミング、オーソリティ(意思決定者)、ニーズなどの明確化に至るまでが、もともとのマーケティングの領域だったわけです。

 しかし近年は、我々が見つけた見込み客から本当にビジネスが生まれたのかが問われています。「リード獲得至上主義」からの脱却を求められ、ビジネスへの貢献度がシビアに見られるようになってきたのです。この潮流は当社だけでなく、外資系のBtoBマーケティングモデルを中心に顕著にみられるようになってきたと感じます。当社では具体的にはお客さまとの関係性を重視し、お客さまと一緒にどのように市場へのインパクトを与えられたのかなどといった共創の指標への貢献が、より重視されるようになったのです。

――ビジネスへの貢献度がより重要視されるようになったのは、なぜなのでしょうか。

 マーケティングが単なる1ファンクションではなく、経営の一部として捉えられるようになってきたことが理由です。特にグローバル企業では、「経営はセールスだ」という考えが強かったのですが、マーケティングを通してブランドや製品の価値を伝えなければ、顧客に長く愛してもらうことはできないという考えが浸透してきています。そのため、マーケティングが経営の中心になってきたのです。

 私自身もCMOのネットワーク組織などで日本におけるマーケティング動向を追ってきましたが、その中でも最近はマーケティングが経営に近づいてきていることを実感したり、マーケターが経営者になったケースを目にしたりしています。マーケティングは、かつては広告宣伝が中心でしたが、今では「マーケティング=経営」というように、存在意義や定義が変わってきたと感じます。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録