「軽妙志向」も評価される傾向も
とはいえ、広告・マーケティング界が、難しいことや良識的な側面ばかりでは動いていないのも事実です。「チェンジ志向」と相対する形で「軽妙志向」とでも呼ぶことができそうな作品も同時に、高く評価されていました。その最たるものが、Filmのもうひとつのグランプリ「It’s a Tide Ad」でしょう。Tideはアメリカで有名な洗剤のブランドです。この広告は、テレビCMの祭典としても有名な「スーパー・ボウル」で流されました。
「スーパー・ボウル」は、アメリカン・フットボールの全米一を決める決勝戦。もの凄い人気ですさまじい視聴率の高さで有名です。従って、各ブランドはこぞってチカラの入ったテレビCMを制作し、30秒枠4億円とも言われる放送料を支払います。専門誌でもないUSA TODAY紙も放映終了後にスーパー・ボウルのテレビCMランキングを発表するなど、一般人を巻き込んだ全米的なテレビCMの祭典にもなっています。
このスーパー・ボウルでTideが行ったのは、一種のパロディCM。いかにもクルマのCMらしいシチュエーションやビールのCMらしい場面を描くのですが、違っているのは着ている洋服が異様にキレイなこと。さらに、他社の歴代の有名なテレビCMもパロディ化し、同じく「洋服が素晴らしくキレイだから、Tideの広告だ」とウソブキました。軽妙な作戦で、スーパー・ボウルのどのテレビCMを見ても、ついついTideを思い出すというような状況をつくり出したわけです。
もうひとつ、僕のお気に入りの受賞作を紹介します。Mobile金賞などを受賞したPedigree「Selfie STIX」という施策です。
愛犬家がスマートフォンでワンちゃんと一緒に写真を撮ろうと思っても、犬はなかなかスマホの方を向いて、じっとしてくれないそうです。そこでSTIXというペディグリーの商品をハメて、スマホの上に括り付けられるクリップを開発した、というもの。ワンちゃんはそのエサ欲しさに、スマホカメラのレンズをじっと見て、めでたくセルフィ―が獲れるというわけですね。軽妙で効果的なアイディアだと思います。
ほかにも、Direct金賞などを受賞したファッションブランドDIESELによる「DEISL―Go With the Fake」や、Print&Publishing金賞などのケンタッキー・フライド・チキン「KFC ‘FCK’」など、「軽妙志向」の受賞作も多数見られました。これらの受賞作、個人的には大好きです。
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デジタルサイネージに、「また来年会いましょう!」の文字が。
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