KYで行こう、ユニークキャンペーンの狙い
僕が西友に入社したのは2008年のこと。その3年前の2005年、バブル時代の放漫投資に起因する多額の負債によって自力で再生できなくなった西友は、米小売最大手のウォルマートに買収されていました。
そして、ヘッド・オブ・マーケティングに就任した僕のミッションは、ウォルマートカルチャーの浸透と、システムの統一でした。
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特売は、非常によくできた手法です。最高価格がクオリティシグナルに、最低価格がプライスシグナルになり、クオリティと価格の魅力を一度にコミュニケーションすることができます。
EDLPに舵を切ることになった西友は、特売という販促手法を使えません。EDLPは、低価格であるという認知形成が難しく、売上は伸び悩みました。それに慌てて一時特売モデルに逆戻りしたことで、お客さまを混乱させることに——僕が入社したタイミングは、そんな悪いスパイラルの真っただ中でした。
当時の西友の宣伝広告費の大半は、折込チラシに充てられていました。チラシは、お客さまが特売を期待して接触するメディアですから、このまま使い続けていては、お客さまをミスリードしてしまう恐れがある。チラシ以外の方法で、西友の価格優位性を正しく、インパクトをもって訴求する手段が必要でした。
そうして打ち出したのが、2008年から2009年にかけて展開した「KYキャンペーン」です。
矢継ぎ早に、新たな仕掛けを実行していく
第1弾として、「KY(カカクヤスク)で行こう」という小売らしからぬコピーを掲げた新聞広告を出稿しました。西友と競合他社で同じ商品群を購入すると西友が最も安くなるという事実を、買い物のレシートで表現した比較広告です。
そして万が一、他店のほうが安いケースがあれば、チラシを持参していただければ値下げしますということも宣言しました。
キャンペーンのKPIには、「西友を安いと思うかどうか」を聴取する調査で、5段階で最も安いと評価してくれた人の割合を設定していました。「KYで行こう」の展開によって、キャンペーン前から2割ほど伸びました。
続く第2弾で掲げたコピーは「NONSTOP KY」。安さは西友にとって最も重要なテーマであり、ずっと取り組んでいくという、低価格への決意・コミットメントを表現しました。
そして第3弾で掲げたコピーは「I♡KY」。新聞広告に加えてテレビCMも展開し、「EDLPは、お客さまの心地良い暮らしをサポートするものである」という情緒的な訴求を強めました。「低価格であること」に、徐々に感情移入してもらえるようなストーリーを組み立てて、キャンペーンを展開していったのです。
2008年のクリスマスシーズンに展開した「安い!は、愛だ」の頃には、西友の価格を「非常に安い」と捉えるお客さまは、KYキャンペーン開始時の3倍に伸びるほどになっていました。
価格認知をさらに強化するために、2011年には「バスプラ」というコピーを掲げたキャンペーンを展開。赤字覚悟!という圧倒的に安い商品はないけれど、1回の買い物のトータル額=「バスケットプライス」が安いというEDLPの魅力を伝えました。