アイデアをもとに成功につなげる仕組み
今回のマーケティングアジェンダで大西社長が共有してくれたのは、そんなどん底を乗り越えるために言語化された「I-neのアイデアを育て、成功につなげる仕組み」です。
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この図にあるようにI-neがヒットを量産できるポイントは3つです。
■ブランド創出力
■OMO
■IPTOS
特に印象的だったのは、ブランド創出のコンセプト設計の段階で、1万個の「アイデア」から数案に絞り込むときに、「サイエンス」の視点でユーザー調査を行うだけでなく、最終的にはI-neの文化に基づく「アート」の視点で意思決定を行うということを強調されていた点です。
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たとえば、新しいシャンプーの開発に向けて実施したユーザー調査で購入意向が高かったのは「シルキーシャンプー」というコンセプトの商品でした。しかし、I-neらしさや話題性などの観点から2位の「夜間美容シャンプー」というコンセプトを採用したそうです。その選択の結果が、現在のYOLUの大ヒットにつながるわけです。
定量の結果だけを基に商品開発すると、失敗はしにくいかもしれません。しかし、他社も同様の商品に辿り着きやすく、真似もしやすい商品になりがちです。大きな失敗を経験した大西社長だからこそ「失敗しない商品は、大ヒットもしない商品」という言葉は非常に印象的でした。
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さらに、I-neがアイデアをヒットにつなげる上で印象的なのが、「IPTOS」という独自のマーケティングフローです。ヒットを再現できるブランドマネジメントシステムで、「Idea(アイデア)→Plan(企画)→Test(検証・需要予測)→Online/Offline(テスト販売)→Scale(ECスケール・小売り拡大)」を指します。
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プランの段階でPOSの売上予測を実施し、実際に最少ロットで商品をつくってテスト販売します。その後、テスト販売の結果を基にスケールに向けたサイクルを高速でまわすことで、需要予測の精度をなんと92.8%という高さまで向上させるのです。そしてテスト段階で売れることがわかったら、広告投資を増やしていくという判断を柔軟に行います。
この仕組みによって、ヘアケア系カテゴリーの新ブランドのヒット率75%という圧倒的な再現性を実現しました。アイデアを小さく試して、素早くPDCAを回していくことが大事というのは、2日目のキーノートに登壇したスシローの水留社長の姿勢にもつながるといえます。
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また、プロモーションにおいても、大西社長はOMO(Online Merges with Offline)というキーワードを元にオンラインとオフラインの両方の重要性を強調されていましたが、やはりI-neの特徴はオンライン施策にあるでしょう。
たとえばYOLUにおいては、プロモーションに若者から人気のあるTikTokerを起用し、若者を店頭に誘導するキャンペーンを展開することで、オフラインの配荷率を90%まで伸ばしています。オンラインの影響力をオフラインの配荷率につなげる取り組みをしているのです。
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さらにI-neには「BUZZの科学」と呼ばれる、バズを起こすための社内ノウハウを蓄積しています。驚きのあるよい商品をつくり、オンライン上にレビューがある程度存在する状態をつくるなど、バズが起きるための複数の条件を満たすように施策を展開しています。実はYOLUの売上も、1件のユーザーのツイートがバズったことによって急上昇したそうです。
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一つひとつの施策ではなく、複合的に施策に取り組むことの重要さを強調されていたのが印象的でした。
マーケターが学ぶべきアイデアをヒットにつなげる仕組み
私たちが大西社長やI-neから学ぶべきは、アイデアをヒット商品に育てるプロセスは仕組み化できるという点でしょう。
大ヒット商品の成功事例を一つひとつ聞くと、そのヒット商品を考えた人の能力や、その時代にあった運などの要素が強いと考えてしまいがちです。
しかし、アイデアを育て検証する仕組みをつくることで、必ずしも社内に天才的なアイデアマンがいなくてもヒット商品を生み出すことはできるはずだと思います。ぜひ、多くの日本のマーケターに、大西社長とI-neの仕組みから学んで欲しいと思います。
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