時代の流れを読みながら、ユニークさを失わない
萩原 最近では「義理チョコ」に対する価値観が変わってきています。それに対して、何かアクションされたことはありますか。
河合 2021年のバレンタインから、「義理チョコ」という発信はしない方針にしました。「バレンタインをもっと自由に」という方向性のメッセージに変更しています。世の中で義理チョコが否定されているのは、「義務」のチョコになっているからです。
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義理チョコは、「職場で何かあげなければいけない」「もらったら返さなければいけない」といった「義務感」の中でやりとりされるため、ネガティブな存在になってしまったと思います。義理チョコの中にも「友チョコ」や「家族チョコ」などさまざまな表現がありますが、それ自体は義務でさえなければ、とても良いことだと思います。
子どもの頃は、バレンタインをわくわくドキドキするイベントとして楽しめていたはずなんです。その感覚を思い出しましょうということで、2021年にはECで下駄箱や告白練習マネキン、マフラーを販売して話題になりました。
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萩原 時代の流れを読んで舵を切る力もありますし、そこにちゃんとブラックサンダーのユニークさを取り入れているのがいいですよね。そんな河合さんご自身もユニークな人なのではと想像するのですが、いかがですか。
河合 私自身は、子どものころからクラスの中心に立つよりも、外野からポンと言葉を投げかけて盛り上げるのが好きな性格でした。それは天邪鬼な一面があるんだと思います。死角から「こういうのはどう?」と提案してクラス全体を盛り上げたいんです。これを企業の規模になっても取り組んでいるのかなと思います。
また、子どもの頃から漫画が大好きで、今も読み続けています。漫画は時代を表していることもあるので、何らかのインプットになっているのかもしれません。それから、人間観察や世の中について自分なりに思考するのも好きです。「あの人はなんでこんな格好なんだろう?」「この店はなぜこんなに流行っているのだろう?」という思考は、常に癖として持っています。そのように考えたことが引き出しの中に入り、アイデアの基盤になっているかもしれません。
萩原 アート思考では、枠から外れて発想することが大事です。それは、ある意味「ここだ」と自分なりに決めて信じて進むことだとも思います。河合さんのバックボーンにはそういう原体験があって、現在の経営につながっているのだなと納得しました。有楽製菓さんの経営理念には「ユニークな発想と技術で、新たな感動と喜びを創造する」という言葉がありますよね。
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河合 はい、その考え方は祖父の創業の時代から大事にしています。当時はウエハースが主力の会社で、一斗缶に入れてグラム単位で販売していたそうです。そういう値段のつけ方なので、菓子業界の中にはウエハースのクリームに水分を含ませて重くして、高額で販売する方法が横行していました。しかし、祖父は品質を守ることが大事だと考えて、水分を入れないサクサクした美味しいウエハースを提供することを徹底していました。その美味しさがお客さまに伝わり、ここまで生き残れたので今も品質を第一に考えています。
また、「ユニークな発想」というのは、先述のマーケティングの考え方と同じく、当社はスタートアップなので大手企業がやらないことを自分たちで発想して取り組んでいかなければいけないということを意味しています。そのため、私が全社の各拠点を回って話す機会でも、創業からの思想を必ず従業員に伝えています。
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