難民に関する報道も同じことが起きている

 UNHCRの職員は、世界中で1万人います。国籍はさまざまです。だから英語を共通語とし、会議、公式文書などは英語。情報も英語で共有します。

 英語で得られる情報が、ときに日本で敷衍(ふえん)しているものと全く違うこともあります。メディアリテラシーは私たちにとって、とても重要なことです。

 メディアはときに暴走します。大坂選手の「I’m sorry」の例でも分かります。難民に関する報道もそうです。日本のメディアだけではなく、世界はどう報じているのか、常にチェックし、比べて分析し、正しい情報を皆さんにお伝えするのも私たちの役目だと考えています。もし私たちの力が及んでいないとしたら「I’m sorry」。

 「難民」についての正しい情報を効果的に伝えるために、その世界に影響力のある人の助けを借りることがあります。その中でも、私が大切にしているのはUNHCR親善大使でもあるMIYAVIとの関係です。

 彼は、アメリカを拠点に世界で活躍しているギタリストで、俳優としても同じく親善大使をしているアンジェリーナ・ジョリーの監督作品「不屈の男 アンブロークン」でハリウッドデビューを果たしています。アンジーの弟分でもあります。

 MIYAVIとは一緒にレバノン、タイ、バングラデシュの難民支援の現場を訪ねました。彼は、ギター片手に音楽で巧みにコミュニケーションしていました。
 
2018年2月にバングラデシュを訪問した際のMIYAVIとロヒンギャ難民の子どもたち。© UNHCR/Caroline Gluck
 日本に帰ってくるたびに連絡をくれます。「最近の難民情勢を教えてください。僕ができることは何ですか」と。私は彼と会い、世界的ミュージシャンの世間に対する影響力を意識した上で、できるだけ正確で、発信して欲しい情報を伝えます。

 彼はそれを咀嚼し、自分の言葉にして難民支援の語り部になってくれるのです。私は舞台そでに控えている黒子ですね。

 余談ですが、彼は日本人ですが流ちょうな英語を話します。私との会話もメールも英語でやりとりします。何ででしょうね。その方がお互い楽だからでしょうか。

 難民映画祭の初日にも会場を訪れ、壇上でのトークセッションを通じていろいろと話をしてくれました。難民が置かれている現状をどう伝えていくか。彼は「伝え方」についてこう話しました。

「ニュース、演説では届かないものもあります。音楽や映画など文化の力はとても大きなものです。私はどうやって伝えるかを常に考えています。おしつけがましく表現するのではなく、カッコよく活動していきたい」

 一方で「伝えなければならない責任感を感じる一方で、現状を変えられない無力さを感じることがあります。それが悔しい」とジレンマを口にしました。
 
難民映画祭のトークイベントに登壇するUNHCR親善大使のMIYAVI © UNHCR/Keita Suzuki
 当日、会場にはMIYAVIのファンとおぼしき女性の方がたくさん来てくれました。彼の活動に注目しているものの、難民関連のイベントに参加するのはおそらく初めての方がほとんどではないでしょうか。そういった方たちの心にMIYAVIが伝える言葉が響いた、と思っています。親善大使としての役割を十分に果たしてもらっていると実感しています。 MIYAVIが言っていました。

 「小さな一つひとつのことを本気に。自分のできることをやっていく」

難民支援のために、私が常に考えていることでもあります。
 
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