コロナ禍を乗り越えた2022年、2023年とカンヌライオンズの速報記事をアジェンダノートに書いて、現地の様子や注目事例をレポートしました。さて、2024年のカンヌライオンズは、どうだったのでしょうか? 昨年同様の形で、速報をお届けします。
 

クラシックの秀逸作品に注目しよう


 こんにちは!多摩美術大学で広告論 / マーケティング論 / メディア論を教えている、佐藤達郎と言います。アジェンダノートでは2018年以来、カンヌライオンズのご紹介をしています。ADKと博報堂DYメディアパートナーズで長年働いて、2011から現職となりました。カンヌライオンズには2002年に初めて参加し、2004年には審査員も経験。その後も取材・研究・紹介を続け、今年で19回目の現地参加となります。
  
メイン会場を外から見たところ。さ、今年も、始まります!
  
カンヌライオンズ2024のロゴは、こんな感じ。

 カンヌライオンズ(正式名称はカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)は今年が71回目となる、世界で最も影響力を持つ広告・マーケティングの祭典です。30の応募部門(ライオンと呼ばれます)を持ち、200近いセミナーを開催。1954年以来71年の長きに渡って、世界の広告ビジネス、マーケティング・コミュニケーションをリードする存在となっています。

 さて、この記事は開催2日目火曜日の午前中に書いているのですが、1日目(月曜日)夜に行われた贈賞式で、アウトドア部門の受賞作が“当たり年”と強く感じたので、その中から事例をご紹介しましょう。

 ところでカンヌライオンズは数年前から、20~30ある部門(今年2024年は30部門)を9つの「トラック」に分けているのですが、その中でも、その名も“クラシック”と名付けられたトラックがあります。そのクラシックに分類されているのが、「フィルム部門」「プリント&パブリッシング部門」「オーディオ&ラジオ部門」そして、「アウトドア部門」です。

 この“クラシック”という呼び方には、<最先端ではない>というやや否定的なニュアンスと、<広告コミュニケーションの源流>といった肯定的なニュアンスの両方が感じられます。

 そんな“クラシック・トラック”の中でも、アウトドア部門はネット上での拡がりを見せる応募作も少なくなく、毎年個人的には注目している部門です。その中でも、今年2024年は豊作と言えると思います。
  
贈賞式やセミナーが開催されるルミエール・シアター。
  
ゴールド以上の受賞チームは登壇して、喜びを爆発させます。

 ここでは、筆者のお気に入りのゴールド受賞作を1つご紹介しましょう。この受賞作は、“豊饒な内容を含んだシンプルさ”に貫かれている、と感じました。英国航空の「WINDOWS」です。

 この事例は、機体の外から飛行機の窓を写し、そこから外を覗いている顧客がいる、というもの。機体に描かれた、社名であるBRITISH AIRWAYSは、その一部しか見えて来ません。例えば、“BRITI・・・”の上半分くらい、といった具合に。それでも、英国航空に乗って出かける旅情は、充分に伝わるのです。
  
こちらのサイトで「WINDOWS」を見ることができる。

 11のバージョンを、英国を縦断する形で324か所に掲示しました。応募用の事例ビデオの中では、“NO”を幾つか並べる形で、「行動を促さない」「QRコードを表示しない」「ロゴも無い」「キャッチフレーズも無い」とその型破りな“シンプルさ”を伝えています。

 イマドキの広告にありがちな“直接的な反応を取る”ことを徹底的に排除して、すでに超有名キャリアである英国航空と英国民とのエモーショナルな絆をつくり、そうすることで値段の安さを標榜する航空会社との差別化を図ったと言います。

「とにかくシンプルに」と、いわば安易に考えることに対して、筆者は反対の立場なのですが(表現をシンプルにして伝わる内容も痩せ細る例も少なくない)、こうした事例は、逆に「シンプルにすることで豊穣なメッセ―ジを伝えた例」だと言えるでしょう。いやぁ、素晴らしいですね。