「指名検索」は新しいクリエイターの通信簿?
―― 壮太郎さんの転職経緯も教えていただけますか。
壮太郎 前職は広告会社のADKで、27年間勤めました。入社当初にマーケター(ストラテジックプランナー)として7年修練を積んだあと、社内転局試験に合格しCMプランナー/コピーライターの道を歩むことになります。キャリア終盤はシニアクリエイティブディレクターとして数十名の組織マネジメントを担うありがたい立場もいただいていましたが、今回51歳で人生初の転職を決意しました。
その決断の背後には「マーケティングとクリエイティブの分断」をなんとかしたいという想いが強くあるんです。この業界はいま、従来の広告会社に加えてコンサルティングファームやデジタル専業、その他多くのプレイヤーが入り乱れて熾烈な競争を繰り広げています。そんな中で従来の広告クリエイターは、マーケティングプロセスのより上流へ関わるか、あるいは下流のクラフトワークで頂点を目指すか、いずれかの選択を迫られることになるのかなと。でもAIの進展スピードなどを考えると、後者は相当イバラの道な気もしますよね。
で、各社が生き残りをかけて何かと「統合」をうたって、上流に下流にと領域を拡張しようとしているわけですけど、現場レベルではマーケティングとクリエイティブが「再現性の高い質的融合」を果たせておらず、帳尻合わせの提案に終始するケースも少なくないことにずっと問題意識を持っていたんです。そんな中で50代を迎えて。2つの道を歩んできた自分のキャリア集大成として、マーケティングとクリエイティブスキルが高いレベルで融合したハイブリッドなCDモデルを育成できる少数精鋭組織で働けたらなあ…。そんな風にぼんやり思っていたところにCEOの田部から奇跡的にオファーをもらい、神の啓示かと思いました(笑)。
前職では光栄にも国内有数のナショナルクライアントの企業広告案件などに多く恵まれ、大きなやりがいを感じていました。一方で、クライアントの事業を実際に肌で感じたこともないクリエイターが、たまたま呼ばれた一回の競合プレゼンで、訳知り顔で話した提案をお買い上げいただいたとして、なんだかその企業への敬意を欠いているのではないか。経営者という立場は数々の事業の成功と失敗の上にようやく築かれるはずですが、実際に事業の当事者を経験したことのない「弱さ」を抱えたまま、同じ目線に立つことの後ろめたさをどこかで感じてもいたんです。そんな中で「事業成果に責任を持つ」と言うスタンスが明快なノバセルに引き寄せられるように入社した感じですね。
実は私も大地さんと同じく、小霜和也CDを敬愛してやまない、ひとりなんです。大地さんも語っているとおり、クライアントファーストの軸がブレない偉大なCDでしたが、広告クリエイティブ表現への強いこだわりと情熱も持ち合わせた稀有なクリエイティブディレクターでした。今回、愛弟子である大地さんと巡り会ったことにも、運命的なものを感じています。

ノバセル エグゼクティブクリエイティブディレクター
田中 壮太郎 氏
早稲田大学 政治経済学部 卒業。1997年ADK(旧旭通信社)入社。ストラテジックプランナーとして7年従事した後、クリエイティブディレクター/CMプランナーへ転向。2024年までに統合型キャンペーンのシニアクリエイティブディレクターとして、多数のナショナルクライアントのクリエイティブワークを手がける。
近年の主なCD担当クライアントとして、KUMON/大和証券グループ/佐藤製薬/YKK/SUNTORY/りそな銀行/TOSHIBA/KIRIN/NTT西日本/SHARPなど。受賞歴としてADFESTブロンズ/ACCシルバー/TCC新人賞/朝日広告賞他。
2022年ACCマーケティングエフェクティブネス部門審査員。
田中 壮太郎 氏
早稲田大学 政治経済学部 卒業。1997年ADK(旧旭通信社)入社。ストラテジックプランナーとして7年従事した後、クリエイティブディレクター/CMプランナーへ転向。2024年までに統合型キャンペーンのシニアクリエイティブディレクターとして、多数のナショナルクライアントのクリエイティブワークを手がける。
近年の主なCD担当クライアントとして、KUMON/大和証券グループ/佐藤製薬/YKK/SUNTORY/りそな銀行/TOSHIBA/KIRIN/NTT西日本/SHARPなど。受賞歴としてADFESTブロンズ/ACCシルバー/TCC新人賞/朝日広告賞他。
2022年ACCマーケティングエフェクティブネス部門審査員。
―― 51歳での初転職に不安は感じませんでしたか。
壮太郎 それが不思議とほとんどなくて、むしろ逆に天井が見えつつあった自分のキャリアに光が差した気分でした。というのも、広告業界はご存知の通り絶対的に強いプレイヤーが揺るぎないシェアを長年占有していて、地殻変動は期待できなかった市場です。この業界の次の姿をなかなか展望できないなかで、ノバセルには「チャンスがある」と思ったんです。長年、分断を解消できずにいたマーケティングとクリエイティブのハイレベルな融合。それができる新しいクリエイティブディレクターの姿を、ノバセルなら世の中にデビューさせられるのではないか。年齢など関係なく、それに向かってチャレンジしてほしいという田部の言葉にも勇気をもらいました。
ノバセルは一部で「先人が築き上げてきた広告文化を軽視した壊し屋」と誤解されている向きもあるようですが(笑)、まったくそんなことはありません。むしろクリエイティブへのリスペクトも強く持ち合わせながらも、この業界を変えようというパッションで心がひとつになった「純度の高い組織」だと感じています。
―― 具体的にノバセルのどんな点にチャンスを感じたんですか。
壮太郎 「指名検索」をテレビCM効果の重要指標として可視化した点です。成果の可視化とは、言い換えればクリエイターの実力の可視化でもあり、広告賞歴に変わる新たな「クリエイターの通信簿」にもなります。これは世の中のクリエイターが本物かニセモノかを丸裸にしてしまうヤバい指標である一方で(笑)、この業界のあり方を根底からくつがえす全く新しいクリエイティブビジネスが生まれそうな予感を感じたんですよね。
デジタル広告はともかく、売上に直結する「行動指標」にマスクリエイティブは直接影響を与えられず「意識指標」にしか責任を持てない。それが従来の広告クリエイティブの大前提であり、だからこそ偉大なクリエイティブワークが生まれる土台にもなってきました。しかし、成果の可視化はもはや不可逆の流れであり「クリエイティブってのは、データの奴隷になってはダメだ」といった居直りも通用しなくなりました。AIがクリエイティブ制作の現場に一気に侵食してきたことも併せて、クリエイターキャリアの変革は待ったなしの状況です。
そんな中でノバセルに実際入社してみると、広告効果測定ツール開発やAIのビジネス実装に明け暮れるエンジニアが、自分の席のすぐ隣の島で机を並べていたりするわけです。そんな会社あんまり聞いたことなくて、これは面白いなと。これまでどっぷりマス広告のキャリアに浸かってきた自分には想像もつかない刺激的な環境で、SaaSビジネスと広告クリエイティブのメソッドの掛け算が、クライアントとクリエイターとの間にこれまでにない強い信頼関係を生みだすかもしれない。そんな風に思えてワクワクが止まらない毎日を過ごしています。