「価値」につながっているかどうか


今瀧 僕、行動経済学が大好きなんです。人間は感情ではなく合理で動くというのが経済学の考え方であるのに対して、人間は合理ではなく感情で動くというのが行動経済学の考え方です。

たとえば、ダイエットをしているのであれば、経済学上は「食べない」という選択が当たり前ですが、実際はついつい食べてしまうことがあるわけです。これは人間が感情で動いてしまっている証拠ですよね。

機能で差別化できなくなったので、今後は感情の占める部分が着実に大きくなっていきますし、価値観も多様化すればするほど感情が重要視されていきます。エモマーケティングは、行動経済学をマーケティングに落とし込んでいるという考え方に近いのではないかと思っています。
  

鹿毛 そのとおりだよね。ただ世の中では、そういう話をしても「それをどうやって証明したらいいんですか」「それをどのように効果測定したらいいんですか」って、すぐに手法の話になってしまうんですよ。

ところが、今瀧さんは27歳の若さで本質的な考え方にたどり着いている。どうしてそんなことができるんですか。

今瀧 僕は良くも悪くも自分の目指すベクトルが出世やお金ではないので、手法や数字に落とし込もうとしないのだと思います。

ただ、その本質に気づいているのに、社内政治が障壁になって踏み出せないというマーケターもいると思います。それはもったいないなと思い、2025年2月から法政大学の経営学部の先生(西川英彦研究室)と産学連携で、「エモ」を計測分析するスキーム・モデルの共同研究を開始したところです。消費者の心を動かす「エモ」を数値化し、新たなマーケティングの実務的手法の確立を目指しています。それによりマーケターの皆さんに、上司の説得材料を提供したいと思っています。

鹿毛 素晴らしい取り組みですね、そんなことまで始めたんだ。エモについてもう少し聞きたいな。「エモ」というのは、どうしたらいいですか。

今瀧 エモは、機能の差別化ができないときに重要になります。もちろん、差別化もエモも両方あるに越したことはありません。
  

鹿毛 エモは表現方法で、そのために押さえるべき場所がインサイトなのかもしれないな。

今瀧 おっしゃるとおりですね。

鹿毛 僕がずっと思っているのは、押さえる場所はまず新しくなければいけないということです。

たとえば、昔ビートたけしが「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言ったんだけど、当時はそれが新しくて。潜在意識、つまり心にはあるけれど、頭にはないことを言われたので、そのギャップが笑いに変わったんです。本人も気がついていない何かを言われる、そしてそれが消費につながるんですよね。

今瀧 新しいものはエモというか、笑いや好感、つまり「ハッピー」につながるんですよね。

鹿毛 そうですね。ここを押さえたらいいというツボはたくさんありますが、昔のツボは効かなくなっていくので、新しくなければいけないんです。それがZ世代なら、ツボが少しずれるだけで新しいわけですね。

今瀧 そうなんです。そのため、Z世代が考えることがすごく有利になるんですよ。何をやっても基本的には今よりも新しいものになるから、すべてがおもしろいということになります。

鹿毛 今瀧さんは、その新しいツボを押さえる能力が非常に長けているんです。ただ、気をつけなければいけないのは、新しいけれどビジネスに関係ないツボも存在するということですね。
  

今瀧 ありますね。先ほどの「価値」の話ですね。

鹿毛 そのとおりです。それが本当に「価値」につながっているかどうかということですよね。また、そのツボを押さえたときに、みんなが理屈ではなく頷いている感じがあるかどうかです。さらに、作り話ではなく本当に人の心の中にあるかということも大事だと思っています。

さて、ここまでいろいろなお話が聞けましたが、最後にマーケターに向けたアドバイスをお願いします。

今瀧 人間にとって一番平等にあるのは、「時間」だと僕は考えています。

日本では時間型雇用が基本なので、他人の倍の時間働けば倍稼げるわけですが、それではいつまで経っても生産性が上がっていきません。人口が減少している日本では、生産性が上がらなければ、単純に市場は縮小していきます。

そのため、1時間当たりの生産効率を高めるという意識を持ち、かつそれを会社が評価する制度に変えていかなければ、これからの日本はやっていけないだろうなと思います。

鹿毛 その解決策のひとつがジョブ型雇用という考え方ですよね。これを読んでいるマーケターや経営者、人事のみなさんは、ぜひそこにしっかりと手を入れていきましょう。

※「エモマーケティング®」は僕と私と株式会社が保有する商標です
  
  • 前のページ
  • 1
  • 2