感じる知性、思考する能力こそが「ヒト」の存在意義
改めて、ChatGPTの「EQ(心の知能指数)」の進化への取り組みは、回答の透明性や公平性、説明可能性などの責任範囲を明確にしてAI倫理を高める上で、またユーザーが回答に頼る上で、とても重要な分岐点であると思います。
EQについては、ダニエル・ゴールマン著の書籍『EQ こころの知能指数』で次のように述べられています。
- 「ある意味では、私たちのなかには二種類の脳、二種類の知性がある。考える知性と、感じる知性と。IQと同じようにEQ(心の知能指数)も大切なのだ。感じる知性がなければ考える知性は十分に機能できないのだから」
「最初に共感にもとづく動機づけをしてやらないかぎり、その後にどんな治療を試みてもうまくいかないだろう」
つまり、人の生活の中に浸透を生む分岐点には心・感情があり、「感じる知性」に人間は重きを置いていると考えていると理解できます。
またOpenAIの代表のサム・アルトマン氏は、過去の動画で「ノートとペンを使って思考することを大事にしている」と話しています。それも3日に1冊、スパイラルノートを使い切り、日本製のボールペンを愛用しているとのことです。そして、インタビュアーが「AIが文章を書く能力が飛躍的に向上していて、書くことに対する世界的な影響を与えている」と話すのに対して、サム・アルトマンは「私にとって書くことは最も重要な思考ツールであり、この重要性は変わることはないでしょう。人と話し、たくさんのアイデアに触れ、一人でノートに書いて深く思考する時間を見つけることは重要なパターンだと思う」と話しています。
Sam Altman's Method for Clear Thinking
2025年2月3日に東京大学を訪れた際の学生との質疑応答で、「 今後、人間に重要となるスキルは何か?」と質問された際には、「数学、プログラミング、物理学などで人間がAIに勝つことは不可能。計算で人間が電卓に絶対に勝てないのと同じ。今後はすべての人々が、最高レベルの知にアクセス可能になる。そこで人間にとって重要になるのは、どのようにビジョンを描き、人々を動かすか。リーダーシップがより重要になる」と回答したとのことです。
昨今、「AIによる人員削減成功」のニュースを多く見かけます。生成AIの可能性は幅広くとも、効率化という点では手段にすぎません。効率化の結果として生まれた余白で、消費・経済や時代を動かし、成長を促すことができるかが重要です。マーケターには、思考すること、人々の共感を生んで動機づけること、意思決定の背中を押すこと。「ヒト」の感性・感覚に訴える身体や土地・空間といったフィジカルなデバイスを通して、価値を「Refreshed.」していくことが求められます。
古くは、フランスの哲学者 ブレーズ・パスカルが著書『パンセ』の中で「人間は考える葦である」と表現しました。人間が自然界においていかに脆弱であるかを認めつつ、その弱さの中で思考する能力こそが、人間の価値や存在意義であることを示唆してきました。マーケターはAIのプロンプトを使いこなす技術を身につけるとともに、意識的に「感じる知性」を高めることに取り組むのを忘れてはいけないと思います。