世界最大級のモーターサイクル国際見本市「EICMA」は、主要な二輪車メーカーが出展し、世界初公開を含む最新モデルを発表することで知られる一大イベントだ。2025年は11月4~9日にミラノ郊外の国際展示会場「フィエラ・ミラノ・ロー」で開催された(同会場は、世界最大級のデザイン・家具見本市「ミラノサローネ」のメイン会場としても知られる)。
業界関係者やプレスはもちろん、世界中のバイクファンが最新情報を求めて訪れるこのイベントに、サイバーエージェントグループ初のクリエイティブエージェンシー「新たな細胞」の代表・中橋 敦氏が現地参加。熱気に満ちた会場の様子をレポートするとともに、同イベントの来場者数が年々増加している理由を「体験価値」「情報拡散」「効率」の3つの視点で考察した。
業界関係者やプレスはもちろん、世界中のバイクファンが最新情報を求めて訪れるこのイベントに、サイバーエージェントグループ初のクリエイティブエージェンシー「新たな細胞」の代表・中橋 敦氏が現地参加。熱気に満ちた会場の様子をレポートするとともに、同イベントの来場者数が年々増加している理由を「体験価値」「情報拡散」「効率」の3つの視点で考察した。
若年層も参加する、世界最大規模の二輪展示会「EICMA」
1914年にミラノで始まったEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)は、世界最古級かつ最大規模の二輪展示会だ。2025年は50ヵ国以上から730社超、2,000以上のブランドが参加し、6日間で60万人以上が来場した。
執筆者

中橋 敦 氏
新たな細胞 Cybor.
CEO / Creative Director
サイバーエージェント初となるクリエイティブエージェンシー「新たな細胞 Cybor.」の代表。デジタルとフィジカルの融合をテーマとした企画・クリエイティブ開発を得意とする。国内外のクライアントの企画・クリエイティブディレクションを担当。ACC、JAA消費者が選ぶ広告賞、Adfest シルバー、NYフェスティバル ファイナリストなど。 Instagram主催Mobile Creative Award審査員。デジタルハリウッド大学・大学院准教授兼任(講義テーマ:テクノロジー&コミュニケーション)。ギャラクシー賞 CM委員、販促会議「販促コンペ」最終審査員、広告ウヒョー!プロデューサーを兼任。
新たな細胞 Cybor.
CEO / Creative Director
サイバーエージェント初となるクリエイティブエージェンシー「新たな細胞 Cybor.」の代表。デジタルとフィジカルの融合をテーマとした企画・クリエイティブ開発を得意とする。国内外のクライアントの企画・クリエイティブディレクションを担当。ACC、JAA消費者が選ぶ広告賞、Adfest シルバー、NYフェスティバル ファイナリストなど。 Instagram主催Mobile Creative Award審査員。デジタルハリウッド大学・大学院准教授兼任(講義テーマ:テクノロジー&コミュニケーション)。ギャラクシー賞 CM委員、販促会議「販促コンペ」最終審査員、広告ウヒョー!プロデューサーを兼任。
新型車の発表だけでなく、モビリティの未来、ヘリテージ、イノベーション、文化など、二輪に関わるすべてが集う。日本のモーターサイクルショーはベテラン層の来場比率が高い印象があるが、欧州では二輪は「メジャースポーツ」として若い世代にも浸透している。そのためEICMAでは10代を含む若年層の姿も多く見られ、幅広い層が同じ熱量を共有している点が印象的だ。

筆者にとっては、今回が初めてのEICMA参加となった。ホンダ「V3R 900 E-Compressor Prototype」のプロモーション映像を制作させていただいたことをきっかけに、欧州という大型バイクマーケットの中心における受け止められ方を確認し、今後の欧州向けコミュニケーションの参考にするためでもある。
SNSやYouTubeをはじめ、現地に行かなくても情報が手に入る時代──それでもEICMAは出展ブランドも来場者も年々増え続けている。なぜ、世界中の人々はわざわざミラノに足を運ぶのか。本稿では、その理由を紐解いていきたい。
なぜ人はEICMAへ向かうのか?
SNSやYouTubeでは、EICMAの様子がほぼリアルタイムで配信される。プレスデーに公開された新型車は、数分後には世界中に映像が広がり、個人クリエイターの動画を見ればまるで現地に行ったかのような気にすらなる。むしろ、1日中YouTubeを漁ったほうが、会場を歩き回るより効率的に情報を集められるかもしれない。それでも来場者数は年々増加している。
その理由を「体験価値」「情報拡散」「効率」の3つの視点で考察してみたい。
まずは「体験価値」だ。ネット上の情報爆発により、以前よりもはるかに効率的に情報を取得できる時代になった。しかし、効率が極端に高まったことで、逆説的に心動かす情報を得ることは難しくなり始めている。いくら高画質の映像でも、素材の質感、車体の存在感、跨った瞬間のワクワク感など、身体感覚に根ざした“非言語の情報”までは伝わらない。特に趣味性の高い大型バイクの世界では、スペックシートだけでは伝え切ることができないフィーリングやインスピレーションが重要な要素となる。


Kawasaki次に「情報拡散」だ。機材の進化と個人クリエイターの増加により、現地レポートは即時に世界へと広がるようになった。海外の動画であっても自動翻訳が入ることで視聴のハードルは下がり、映像ソースは一気にグローバル化している。オフィシャルメディアによるレポートはもちろん、現地からの速報動画は短尺化され、YouTubeやTikTokといったグローバルプラットフォームに乗って瞬く間に世界中へ拡散されていく。情報の拡散性は、以前と比べものにならないほど高まり続けている。EICMAはまさに「熱源」となり、その熱を個人クリエイターが増幅し、世界へと拡散していく──そんな構造がすでに出来上がっている。
熱を帯びたリアルな場に人が集まるということは、すなわち現地から情報を発信する人が増えていくことを意味する。そして、メディアを通じてその情報に触れた人々は、映像だけでは伝わりきらない空気感を意識させられ、現場から立ち上る熱に影響を受け、次は自ら現地へ足を運びたいというモチベーションを高めていく。情報に触れることで満たされるどころか、「そこに行かなければ得られない体験」がより強く可視化されるからだ。
最後に「効率」。ここではブランディングを仕掛ける側の視点に立って考察する。テレビCMやネット広告など多様な手法が存在する中で、フィジカルなイベントは「リーチ」という指標だけを見れば、一見非効率に見える。場所を押さえ、企画を練り、安全面にも配慮しながら時間とコストをかけて制作しても、直接接触できる人数には限界があるからだ。しかし、EICMAのように現地を起点としてUGCが自己増殖する構造を設計できたとき、効率の意味は大きく反転する。現地で体験した人々が発信者となり、その情報に触れた人々が次の来場者となることで、体験は一過性のものではなく、連鎖的に拡張されていく。結果として、現地体験者とメディア越しの体験者を合わせた「深く熱に触れた人」の総量は、広告単体での展開を上回る規模へと成長し得る。
つまり、フィジカルイベントにおける真の効率とは、短期的にどれだけ多くの人に届けられるかではない。どれだけ長く、どれだけ深く、熱を増幅させ続ける構造をつくれるかにこそある。フィジカルな場は、ブランドの熱を世界へと拡張し続ける最も効率的なエンジンになり得る──EICMAはそれを示している。




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