350名以上のトップマーケターが集結する同会の今回のメインテーマは「AIは市場を創造するのか?」。3日間に語られたこと、体験できたことを、筆者なりの視点でレポートします。
後編となる今回は、マーケティングアジェンダ沖縄2025のプログラムの一つとして開催された、若手クリエイター向けの企画コンペティション「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2025」に注目します。
AI時代も、クリエイティブの未来は明るい
さて、マーケティングアジェンダには、全体テーマ(今回は「AIは市場を創造するのか?」)にまつわる数々のセッション以外にも注目のコンテンツがあって、「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2025」と呼ばれています。それは、マーケターとクリエイターの出会いの場を創出し、若いクリエイティブの才能をマーケターが発見することを目的として創設されました。
そこに参加する35歳以下の若手クリエイター(2人1組)は、実在する企業課題から会期中の3日間で企画を練って提案をします。今回課題を出した企業は、バーガーキングを展開する「ビーケージャパンホールディングス」。会期初日に発表された課題を聞いて、参加クリエイターたちはAI顔負けの爆速でアイデアを練り企画として仕上げ、最終日に審査員たちにプレゼンをし、グランプリやゴールド、シルバーが決定されるというわけです。
5回目を迎える今年は、過去最大の19組が参加しました。その参加チーム数の多さからも激戦が予想されましたが、名だたる審査員の皆さんが「19組のどれもが面白かった」と述べるほどの出来だったようです。
ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2025の審査を務めた、審査員・審査アドバイザーの面々。
上位5チームの皆さんが、マーケティングアジェンダの会場で実際にプレゼンテーションも行い、筆者もそれを聞いたわけですが、いやぁ、面白い。面白過ぎる。
この記事の前編では今後のマーケターの行く末に多少なりとも不安を覚えるようなことも書いたわけですが、このコンペを見る限り、今後のクリエイティブ界は明るく、そこと協業するマーケティング界の未来も明るいように思えました。
最終結果の発表前、ショートリスト5チームによるプレゼンテーションが行われた。写真は、シルバーを受賞したTBWA HAKUHODOのチーム。
シルバーを受賞した博報堂のチーム。
ゴールドを受賞したディーイー&onehappyのチーム。
ゴールドを受賞したDroga5のチーム。
そして、グランプリを受賞した電通のチーム。
初日に発表された課題は、「WHOPPERⓇ(ワッパー)の『純粋想起』を強化するマーケティングキャンペーン」というものでした。アジェンダノートの筆者の記事でも何度か紹介していますが、ワッパーとは、バーガーキングの最もスタンダードなハンバーガーのこと。アメリカでは広く知られていますが、日本ではまだまだあまり知られていない商品と言えるでしょう。
この課題に上手に応えるには、「ワッパーというバーガーキングのハンバーガーの特徴を適切にメッセージ」しつつ、「今まであまり見たことがないような『充分に珍しい方法(ぶっ飛んだやり方)』で伝える」という2つの要素を同時に満たす必要があります。
筆者が会場で見た5チームの提案はどれも、上記の2つの要素が高いレベルで達成されていました。そして、もう1つ印象的だったのが、どのチームの発表者も、とても楽しそうに自らのアイデアをプレゼンしていることでした。
今や伝説的なクリエイターの1人であるdentsu Japanの澤本嘉光氏(審査アドバイザー)をして、「僕らがふだん考えている企画よりもある意味で面白かった。僕らもウカウカしていられない」とまで言わしめたのです(筆者にそう聞こえただけなので、正確な発言内容ではなく、文責は佐藤達郎)。
澤本さんのことは以前から存じ上げていますが、ちょっとやそっとのことでそうした発言をするタイプの方ではありません。
審査アドバイザーを務めた、dentsu Japanの澤本嘉光氏。
AIには思いつけない、ぶっ飛びアイデアへの期待
で、前半の話に少し戻りますが、こうした素晴らしい企画でさえも「AI活用」で考えることができるのか?ということも、話題にのぼりました。
筆者の回答は「否」です。語り合った同じテーブルの方の中には、「今回の19チームの企画書や過去4回の各チームの企画書をAIに読み込ませ、どれが高位の賞を得たかという情報も与えれば、可能だと思う」という方もいましたが・・・。
今回のグランプリ受賞企画は、実際のキャンペーンとして実現することが決まっているとのことなので詳説を避けますが、人間ならではの“勘違い”を企画にしたところにクリエイティブの妙がありました。
ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2025 グランプリを受賞した電通チーム。
AIをこの企画作成のために活用しようとしても、その“勘違い”は起こらないし、その“勘違い”に対して「それは間違っています」とド正論な反応が返ってきそうでもあります(AIにそこまで詳しくないので、断言はできませんが)。
まぁ、それがAIに可能かどうかよりも、筆者としては、このとんでもなくぶっ飛んだ、ハッチャけた、十二分に珍しいアイデアを考えついて企画に仕上げたヤングたち、そしてその案と互角に渡り合ったヤングたちの今後に、大いに期待したいところです。