中国では、電子決済サービス「WeChatPay (ウィーチャットペイ)」や「Alipay(アリペイ)」など、スマートフォンを使ったモバイル決済が浸透している。今や中国人の90%以上がモバイル決済の利用経験があるという調査もあるほどだ。
日本でもLINEはじめ各社がモバイル決済を強化しており、その普及が予想されている。消費活動の根幹を担う決済手段が変化すれば、企業のマーケティング戦略も変化していく。
そこで、テンセント「WeChatPay」のグローバル戦略の責任者である、馬遥(マ・ミア)氏の来日に合わせて、小売業のデジタル戦略に詳しいオイシックス・ラ・大地 奥谷孝司氏が公開インタビューを実施。中国で起きている最新動向から、小売業の未来について考えた。
中国で「WeChatPay」を普及させた戦略
奥谷 日本でもモバイル決済は広がりつつありますが、まだ普及したというレベルには達していません。一方で、中国ではモバイル決済が急速に浸透し、最も一般的な決済方法になっていると聞きます。馬 はい、おっしゃる通りです。中国では都市部でも地方でも、ほとんどの人がモバイル決済で買物をしています。WeChatのアクティブユーザーは月間10億人を超え、WeChatPayの1日の取引回数は6億回以上に上ります。おそらく世界で最も使われているソーシャルネットワーキング・プログラムでしょう。日本で人気のLINEよりも多いですよね。
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馬 そうですね、中国では現金を使う人は少数派です。私の財布にも、外国のお金しか入っていません。
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馬 WeChatPayの普及で重要だったのは、2015年の春節(旧正月)に「中国中央テレビ(CCTV)」とのコラボレーションで実施したキャンペーンです。
中国では旧正月に両親から子どもへ、あるいは目上の人から目下の人に「紅包(ホンバオ)」という、お金をあげる風習があります。我々はこの年、WeChatPayの支払い機能で、個人やグループ間で互いに「紅包」を送る機能を提供したのです。
奥谷 テレビとの企画が、普及のきっかけになったのですね。
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馬 はい、「中国中央テレビ(CCTV)」の人気番組で紹介したところ、最初に都市部在住の若者の間で一気に広がりました。
その波が地方に広がったのは、春節の1週間後の休暇に、都市部在住者が地方に帰省したためです。帰省先で、親や友人にWeChatPayで「紅包」を渡したことから浸透していきました。
WeChatPayは、クレジットカードやデビットカードをWeChatのIDと紐付けて使用でき、その数は2015年の春節中だけで4億人に達しました。この1週間がWeChatPayを大きく飛躍させたと言えるでしょう。