企業におけるマーケティングの重要性が増す中、優秀な人材の供給源として熱視線が注がれる大学のマーケティングゼミ。しかし学生の進路や考え方は多様化しており、今の学生はマーケゼミに何を期待し、学んでいるのか。また、学生ならではの感性や手法から、現役マーケターが参考にできるポイントはあるのか。
キャンパスを舞台に活発なマーケティング研究を展開するゼミナールを探訪するAgenda noteの本連載。今回は連載「顧客満足を探究する~データと戦略の森から~」も手がける青山学院大学経営学部 マーケティング学科の小野譲司教授のゼミを訪問し、日本コカ・コーラとの産学連携プログラムで消費者インサイト発見とマーケティング施策立案の演習に取り組む学生たちを取材した。リアルデータを用いたリサーチと斬新な発想力を武器に、最終プレゼンでプロマーケターを唸らせた施策とは。
キャンパスを舞台に活発なマーケティング研究を展開するゼミナールを探訪するAgenda noteの本連載。今回は連載「顧客満足を探究する~データと戦略の森から~」も手がける青山学院大学経営学部 マーケティング学科の小野譲司教授のゼミを訪問し、日本コカ・コーラとの産学連携プログラムで消費者インサイト発見とマーケティング施策立案の演習に取り組む学生たちを取材した。リアルデータを用いたリサーチと斬新な発想力を武器に、最終プレゼンでプロマーケターを唸らせた施策とは。
1年次からリアルな演習を重ねる
東京・渋谷の青山学院大。教室に集まり、談笑していた小野ゼミの3年生たちの顔がキリッと切り替わった。日本コカ・コーラのマーケターが入室してきたのだ。これまで3チームに分かれて取り組んできたPBL(課題解決演習)の成果を彼らの前で最終発表し、順位付けと講評を受ける。課題は「ファンタを高校生に好きになってもらう施策コンセプト」だ。
ここで、ゼミ生がこれまでどんなマーケティング学習をしてきたか振り返ってみよう。
小野ゼミナールは3年次10人のうち、大半がマーケティング学科の学生だ(一部は経営学科)。彼らは1年次でアディダスジャパンと連携し、課題解決演習などを通してSWOT分析、目標設定、ターゲットとコンセプト、プランの提案といったマーケティング活動の基本を学び、具体的なデータベースの使い方、ポストイットを使った会議の進め方、アカデミックライティング、フェルミ推定などツールの活用も入門レベルで学習してきた。
この時点で小野教授が重視するのは「唯一の正解がないことを知ってもらうこと」。分析や提案の根拠は何か。ターゲットは誰か。どのような価値を提供したいのか。同じデータを使ってもアウトプットは異なってくる。実社会では当たり前の「正解がない問い」に向き合うためのノウハウや面白みを伝えていく。
1年次後期では飲料やアイスクリームなどのPOSデータを、Excelのピボットテーブルで集計・分析する課題を行うなど、実践的なマーケティングリサーチの基本習得を目指す。教科書的なマーケティング論や消費者行動論は2年次以降で学ぶ。講義や教科書でマーケティングの知識やフレームワークを学んだものの、それらをどう使えばいいか分からない学生は多い。小野ゼミの学生は、2年次でPBL やケース討議といった学生参加型のマーケティングワークショップ(A~F)という専門科目をいくつか履修しており、それらの知識をどう使えばいいか、教科書で学んだだけでは解けない産学連携課題を通して体験学習している。
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青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 教授
小野 譲司 氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得、2000年、博士(経営学)を取得。2011年より現職。JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査(サービス産業生産性協議会)、日本商業学会学会誌「流通研究」編集長(2021-2022年)などを務める。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、顧客満足度指数(CSI)の開発と活用。主として、顧客満足の理論的・実証的研究の観点から、CRM(Customer Relationship Management)、カスタマーエクスペリエンス(CX)、ウェルビーイングについて学術研究を行う一方、産学連携の共同研究やアドバイザーとして分析・提言を行なっている。主著に小野譲司・小川孔輔編著(2021)『サービスエクセンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』生産性出版、小野譲司(2010)『顧客満足(CS)の知識』(日経文庫)日本経済新聞出版社。
Agenda noteで「顧客満足を探究する~データと戦略の森から~」を連載中。近年は顧客のウェルビーイングに対する企業の貢献を関心領域としている。
小野 譲司 氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得、2000年、博士(経営学)を取得。2011年より現職。JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査(サービス産業生産性協議会)、日本商業学会学会誌「流通研究」編集長(2021-2022年)などを務める。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、顧客満足度指数(CSI)の開発と活用。主として、顧客満足の理論的・実証的研究の観点から、CRM(Customer Relationship Management)、カスタマーエクスペリエンス(CX)、ウェルビーイングについて学術研究を行う一方、産学連携の共同研究やアドバイザーとして分析・提言を行なっている。主著に小野譲司・小川孔輔編著(2021)『サービスエクセンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』生産性出版、小野譲司(2010)『顧客満足(CS)の知識』(日経文庫)日本経済新聞出版社。
Agenda noteで「顧客満足を探究する~データと戦略の森から~」を連載中。近年は顧客のウェルビーイングに対する企業の貢献を関心領域としている。
マーケティングを専門的に学びたい学生を対象として、3年次の春合宿からスタートする小野ゼミの最大の特徴は、企業とコラボした産学連携の学習プログラムだ。学生にとってはリアルな企業活動を体験することになり、企業側にとっては若者のニーズを深く理解し、顧客体験を向上させるヒントを探る目的がある。2023年度にはシンガポール航空とZ世代をターゲットとした機内食やシンガポール旅行企画のアイデア提案を行った。2024年度前期には東急と連携して「市場機会の発見」をテーマに、定量・定性データの収集・分析を通して「渋谷エリアに若者を呼び込む施策」を企画した。
そして2024年度後期は「定性リサーチによる顧客インサイトとコンセプト創造」をテーマに日本コカ・コーラと連携。「ファンタを高校生に好きになってもらう施策コンセプト」を課題として、定性インタビューを通してファンタに対する消費者インサイトを分析し、プランの方向性を中間発表でプレゼンした。その後、更なるインタビューとアンケート調査などの消費者テストを経てブラッシュアップしたプランを、この日、日本コカ・コーラのマーケターに向けて発表する。小野教授の声がけで、3年生3~4人からなるA、B、Cの3チームのプレゼンが順に始まった。