時代は、TellingからDoingへ ー「EV自動車ならルノー」と伝えるためにルノー社が行ったのは、EV充電器版のAirbnbとも言えるサービスを実施(Doing)すること。


 年を経るごとに生活者が触れる情報量が莫大に増大し続ける現在、いくら良い広告表現でも毎年伝わりにくくなっていると言えます。「やっちゃえNISSAN」が始まった2015年と比べても、今や一般論として相当に伝わりにくくなっているでしょう。

 そんな中で、海外の優秀事例で見られるのは、いわば「TellingからDoingへ」とでも呼べそうな方法です。何かを伝えるための広告表現に一生懸命になるのではなく、伝えるための何かの施策をDoingするというやり方です。

 今回は、フランスでルノー社が実施した「Renault – Plug-Inn」をご紹介しましょう。この事例は、2023年のカンヌライオンズで、クリエイティブ・ストラテジー部門グランプリ等を受賞しています。

 フランスでは、2023年当時すでに100万台のEV(電気自動車)が走っているのに、公的な充電ポイントはわずか8万ヵ所しか用意されておらず、特に田舎のほうでは少なく、それがさらなるEVの発展にブレーキをかけていたといいます。

 一方、田舎と言われる地区を中心に、自宅に自分たち用の充電装置を設置している人はすでに一定数いて、その数は68万軒以上にのぼっていました。ここを繋いだのが、いわば充電器のAirbnbとも言える「Renault-Plug-Inn」という仕組みです。(Plug-Innというタイトルには、“電源プラグを差し込む”といった意味と、“Inn(小さな宿)”の意味がかかっています)

 ルノー社は、充電装置を設置している多くの個人宅と契約し、EVユーザーがリーズナブルな価格で充電でき、同時に個人宅も利用料金を稼げるようにしたのです。「Plug-Inn」アプリ上で、充電可能な個人宅を簡単に見つけられる仕組みです。これにより、EV化のリーダーとしてのルノーのイメージも、さらに確固としたものになったと考えられるでしょう。
 
Renault – Plug-Inn
 
 この事例なども、テレビCMなどで「EV車ならルノー」と訴えるのではなく、今より多くの充電場所を確保してEV化を進めるためにルノー社が貢献することで、結果として「EV車ならルノー」というメッセージが伝わるように努めたものと言えるでしょう。

 どんなビジネスでも、自らのブランドや製品の主張を声高に叫んでも、現在の情報環境ではなかなか届きにくいのが現状でしょう。もしメッセージをして届けようとするのであれば、まずは、そのメッセージに真実味を与えるファクトとともに伝えることを心がけましょう。

 また場合によっては、いわゆる広告を使うのではなく、メッセージが届くような施策を実施する「TellingからDoingへ」のやり方を検討してみる手もあるかもしれませんよ。
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