見落とされがちな論点
どうしても広報活動の焦点は社外対応に偏りがちだ。その一方で最も大きな影響を受けるのは従業員である。顧客や取引先から説明を求められる現場社員に対して、企業としての公式メッセージと心理的ケアを提供しなければならない。特に食品・飲料・健康食品を扱う企業の場合、社員は「この製品は安全なのか」「健康への影響はないのか」といった、消費者の生活に直結する質問を日常的に投げかけられる。こうした問いに自信をもって答えられるようにするためには、社内向けの説明資料やQ&Aの徹底、そして何より「社員は守られている」という安心感を与える経営者からのメッセージが不可欠である。
社内の士気低下や離職が進めば、ブランド回復どころか供給体制そのものに支障をきたすこととなり、二次的なダメージを招く。広報部門は社外発信だけでなく、現場社員が自らを「生活者の信頼の担い手」として誇りを持てる状態を維持することを意識しなければならない。

まとめ
新浪会長の退任劇は、非上場企業であってもトップ不祥事が企業全体の信頼を一瞬で揺るがすことを図らずも世の中に示した。上場していないから大丈夫ということではなく、非上場企業はむしろ取引先・金融機関・従業員・消費者といった多層的なステークホルダーとの関係に依存している。
危機広報においては、
1. 初動での責任の明確化(個人と組織の切り分け)
2. 捜査進行中の周到な準備
3. ガバナンス改革と透明性強化の可視化
4. 社員へのレピュテーションケア(特に食品・健康関連企業では「安全性」と「信頼」の説明責任を現場で支える仕組み)
という4つの柱を同時に実行しなければならないため、非常に難易度が高い上、緊急事態の対応となるため即断即決の高度なディテクション/マネジメントが求められる。
フジ・メディア・ホールディングスのような上場企業と、サントリーホールディングスのような非上場企業では、焦点となる利害関係者は異なる。しかし、危機に際して信頼を回復するために広報が果たすべき使命は変わらない。
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