「行動」を軸に「相思相愛」につながるロイヤルティを可視化


鎌田 では山崎さん、お願いします。

山崎 1996年にビームスに入社しました。店舗販売員からスタートし、エリア長などをしながらCRMの立ち上げに関わりました。CX部門の責任者として顧客体験の改善に取り組み、現在はマーケティング本部長を務めております。

ビームスはビジョンを「Happy Life Solution Company」から「Happy Life Solution Communities」へと設定し、「明るく楽しい社会現象を起こし、全ての人が幸せになれるコミュニティを目指す」という企業姿勢を表明しました。1976年に原宿に開いた6.5坪の小さな店から始まり、現在は国内外に約160店舗、約2000人弱の社員が在籍しています。また、30を超える多種多様なレーベルが存在しており、ファッション以外に、雑貨、音楽、アートなどさまざまな分野を取り扱うレーベルが連なっています。その幅広さ、フレキシビリティがビームスの面白さでもあり、時代の要請に応える異業種との協業についても2023年頃から非常に増えている状況です。

ロイヤルティプログラムの「BEAMS CLUB」を2024年にリニューアルした際、全社で目指すべきゴールを「相思相愛の状態」だと定義しました。この言葉は店舗スタッフの発案です。「相思相愛」に至るまでには、ビームスの資産である「モノ・コト・ヒト」を最大限に生かした一貫性のある体験を通じて、共感や愛着、つながりを育んでいくことが不可欠だと考え、社員にも強調しています。
 
ビームス マーケティング本部/本部長
山崎 勇一 氏

1996年にビームスに入社し、店舗販売員からキャリアを開始。店舗マネージャーやエリア統括を経て、CRM部門の立ち上げに参画。顧客システムの再構築やマーケティングシステムの導入、公式アプリの構築を主導し、NPSを基盤としたVOCアンケートの導入を推進。CX部門責任者として、ECサイトやSNS、WEB広告など顧客接点を強化。2024年3月からは、CRMやオウンドメディア・WEB広告運用に加え、宣伝・販促、イベント、サイトのUI/UX、クリエイティブ部門も管掌。

当社は非常に幅広い価格帯でさまざまな商品を扱っています。そのため、金額だけがお客さまとの関係性を図る指標ではありません。今回のリニューアルでは、これまでのように購入金額だけでロイヤルティを測るのではなく、店舗イベントへの参加などの「行動」も加味する仕組みに改めました。行動によって貯まるマイルは「永久マイル」とし、継続的な関係性を重視する設計にしています。また毎月更新制にすることで、ブランドへの関与や愛着をより正確に可視化できるようにしました。
 

たとえば最近もパーソナルカラー診断ができるイベントを全国約15店舗で開催し、参加いただいた会員さまにはマイルが貯まるようにしました。イベントにはカウンセラー資格を持つスタッフも参加し、彼らとお客さまとのコミュニケーションを密にする意味もあります。また、公式サイトでは年間30万件もの投稿をスタッフが行い、メールのコミュニケーションも基本的にスタッフが主体となって行っています。たとえば新しい店ができたらスタッフが内装やおすすめアイテムを紹介するメールを送っています。「顧客カルテ」を使い、接客したスタッフがお客さまに直接メッセージを送ることができる仕組みもあり、彼らがメディアとなってお客さまを店頭に呼んでくれることで、「モノ・コト・ヒト」がロイヤルティに結びついています。

アプリでは「インストアメニュー」を設け、店頭での体験価値をアプリを介して可視化する取り組みを行っています。お気に入り登録などでマイルが貯まり、登録したアイテムの在庫状況も確認できます。こうしたデジタルとリアルをつなぐ体験を積み重ねて、ビームスならではの「モノ・コト・ヒト」の提供価値に触れ合える場所である店舗に来ていただくのが、最終的に「相思相愛」につながると考えています。

鎌田 お話を聞いて、リテールは「人」が前提であるとあらためて感じます。私はサンマルクカフェの1号店ができた頃から好きで通っていたのですが、そのきっかけは「これ焼きたてですよ」というスタッフの声がけでした。食べる予定がなかったパンが「めちゃくちゃ美味しそう」と感じられて、実際に大好きになって通い始めたんです。ところが経営が厳しい頃に入社すると、「焼きたてパンを提供する」という最大の強みが弱くなっていました。そこにフォーカスしてさまざまな取り組みを行った結果、今はブランドが再強化され右肩上がりの業績に結びついています。

「行動」でマイルが貯まるロイヤルティプログラムの話がありましたが、アプリはどのようなことを意識して開発・運用されていますか。

山崎 アプリは「相思相愛」のきっかけづくりだと捉えています。CRMデータやお気に入り登録などさまざまなデータを使って「あなただけにおすすめ」というレコメンドを出しており、先ほどお話ししたビームスの幅広さを感じていただくようにしています。ただ、まだ課題の多いアプリと思っており、改善していきます。

鎌田 サンマルクカフェも店舗拡大を計画しているので、ビームスのスタッフが新店舗のデザインや見どころを紹介するスタイルはいいなと思いました。あれは会員向けにメールで送っているのでしょうか。

山崎 メールです。やはり一方的な企業視点の内容はお客さまにとってメリットがないので、いかにリアルな情報を伝えられるかを意識しています。

鎌田 「人」が介在すると変数が多くなり、教育の必要もあり、「負の部分」と受け止められる場合もありますが、リテールならではの「強み」として、うまく活用されている様子が伝わりました。

最後にCRM・アプリ施策に取り組む企業に向けて、「Do's and Don'ts」を教えていただけますか。松沼さんからお願いします。

松沼 リアル店舗を持つ立場として、アプリは店舗での体験を加速させるためのツールと考えます。お客さまを慮り、行動を予期してデータからパーソナライズしてレコメンドするのは積極的にDoしていくべきでしょう。逆にDon'tsは「とにかく来店させたい」「割引や利便性で何とかなるだろう」などと企業都合の考えを持つことではないでしょうか。

山崎 まずは「企業としてお客さまとどういう関係になりたいか」をベースに考え、研ぎ澄ましていくのがDoだと思います。その中で、アプリやCRM、MAといった手法をどのように活用していくかが重要だと考えます。

鎌田
 「他社がやっているからやろう」とアプリをつくり、とりあえずお客さまに来てもらうために10%割引のクーポンを出し、来なくなると15%、20%…というのは、ありがちな話ですが、お二人の話を聞いて、重要なのは「なぜ来てほしいのか」「自社のミッションは何か」に基づいて各施策の開発や運用を行うことだと考えました。

そしてリテールの強みである「人」と各施策が結びついている両社の取り組みは、当社でもぜひ参考にしたいです。本日はCRMとアプリを軸とした、実店舗での体験価値向上やお客さまとの長期的な関係構築について伺いました。お二方、ありがとうございました。
 
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