CATCH THE RISING STAR #02

「趣味はSNSと伝統文化」 老舗ベンチャー新卒第1期生の挑戦と葛藤【八代目儀兵衛:阪田百華氏】

前回の記事:
「漫画でマーケティングに興味」 専門人材として「洋服の青山」SNS戦略中枢へ【青山商事株式会社:宮下奈旺氏】
 企業におけるマーケティングの重要性が増す一方、「マーケターの仕事は生成AIに奪われるのではないか」とも囁かれる昨今。そんな時代の変革期に、マーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。

 Agenda noteでは「Z世代」と一括りにされがちな彼らの中でも、各企業が特に期待を寄せる「ライジングスター」にフォーカス。生まれた時からインターネットに触れ、テクノロジーやSNSを使いこなす彼らの多彩な思考や行動を探ることで、マーケティング領域の近未来を照射していきたい。

 第2回に登場するのは、江戸時代にルーツを持つ京都の老舗米屋であり、近年はセブン-イレブンとのコラボレーションでも注目を集める八代目儀兵衛の阪田百華氏。お米の新しい価値を提案し続ける同社の新卒1期生として採用された阪田氏は、主力事業であるECサイトの運営を担う一方、伝統文化を愛し、SNSでは個人アカウントを使い分ける多面性も。大きな期待を背負った新人マーケターの挑戦と葛藤を聞いた。
 

伝統文化に強い思い入れ


―― 阪田さんは、貴社が初めて新卒で採用した社員と伺いました。入社の決め手は何だったのでしょうか。

 私は「伝統文化に携わりたい」という思いを軸に就職活動をしていたのですが、伝統文化に関連する企業を見ていると、保守的な印象を強く受けました。幼稚園の頃から趣味で書道を続け、中学高校の部活動では将棋部や茶道部で活動するなど、伝統文化への思い入れが強い一方で、「人と違うことをしたい」という性格もあって、一時期は「ゴスロリ」にハマったりもしていました。衰退しつつある伝統文化に対して、守るばかりではなく、何か新しい挑戦をすることで伝統を受け継いでいきたい。そんな「伝統と挑戦」の考え方にマッチしたのが、八代目儀兵衛でした。
 
阪田 百華 氏
京の米老舗 八代目儀兵衛 通販事業部 サイト企画課 商品開発・マーケティング担当

 伝統文化に関する企業をネットで調べていた時に見つけて、「京都のお米屋さんの老舗ベンチャー」というのがすごく印象に残りました。当初は大手の就活サイトには掲載されておらず、中途採用しかしていないと思っていたのですが、比較的小さな就活サイトで新卒の募集を始めたのを見つけ、「これは受けるしかない」と決めました。日本人の主食であるお米は作り手が年々減少していますが伝統文化の一端を担っていますし、看板商品の「十二単」は、お米の価値を再定義しているという点が魅力的だと感じました。

―― 入社後はどのような仕事を担当されていますか。

 入社後は5カ月間の現場研修を受け、通販事業部のサイト企画課に配属されました。現在はマーケティング担当として公式オンラインストアの更新のほか、メルマガやLINEを活用した販促の企画・実施を担っています。販促物全般に関しては社内に綿密なルールブックがあり、世界観を崩さないようにトーン&マナーを守りながら制作進行しています。

 具体的には、たとえばECサイトでは春に「桜ごはん」、夏に「鰻の炊き込みごはん」といった季節商品を販促カレンダーに基づいて出し入れするほか、新商品を出す際は撮影現場に同行したり、時には商品ページのコピーを考えたりもしています。

 メルマガやLINEに関しては、これまでの方法を踏襲することもありますが、上司や先輩からは「どうしたら売れるか、阪田さんが自分で考えながらやってみて」と言われているので、基本的には自分で計画を立て、必要なクリエイティブがあればデザイナーさんにつくってもらい、投稿・配信、結果の分析・改善といった一連のサイクルを回しています。その中で、たとえば「大型連休前の手土産にどうですか」と呼びかけたりして、ギフト以外の新たな需要を掘り起こし、ユーザーに響くように訴求することを心がけています。

―― 手応えや課題を感じることはありますか。

 手応えを感じた事例としては、昨年末に販売した「お米としめ飾りセット」があります。当社の商品はギフト用がメインということもあり、自宅用であるこの商品は、ECサイト内でもちょっと見つけにくいところにあって、はじめはなかなか認知してもらえていませんでした。そこで何か訴求ポイントはないかと考えた時に、競合他社と比較して八代目儀兵衛ではお米以外の「雑貨」の取り扱いは少ない、ということに思い至りました。弊社としては珍しい雑貨である「しめ飾り」がセットになっている、という点をメルマガ・LINEで強調してみたところ、その日のうちに限定100個を完売させることができました。

 一方で、これは全社的な課題になりますが、今お話ししたように八代目儀兵衛の商品は結婚や出産などのフォーマルギフトとして購入されるお客さまが大半です。セブン-イレブンさんのおにぎり監修などで、認知度も上がってきていますが、なかなか「自宅用」として購入してもらえません。ギフト用として買ってくださったお客さまご自身にもお米の味を楽しんでいただけるよう、クーポン付きのメルマガを送ったりするのですが、一度ご購入いただいてもなかなかリピートにつながっていません。加えて、贈られた方にも自宅用にまた買っていただきたいのですが、そこまで顧客データを追ってアプローチできていないのが実情です。
  
自宅米のオンラインストア

―― 自宅用の販売促進は難題ですね。どのように向き合おうとしていますか。

 簡単な解決策はありませんが、今後は「美味しい」という実体験が重要になってくると考えています。当社のお米は一般的な自宅用としては値段が高く、贈答用で買ってくださったお客さまも実際に食べていただく機会がないため、そもそもの「美味しさ」を知っていただきにくい構造になっています。

 八代目儀兵衛は京都と銀座に米料亭を構えていて、お米の美味しさを体験していただくことはできるのですが、これらの場には特別感があり、自宅用の購入へとうまく誘導できていません。その背景には、「お店では土鍋でお米を炊いているから美味しいんだよね」「自宅の炊飯器だと美味しく味わえないのではないか」といった先入観があり、「毎日のお米」として認識されにくいのではないかと思います。

 今後は、日常のなかで感じていただける「体験価値」を重視していきたいと考えており、実際、東京・代官山の蔦屋書店で試食イベントを開催したところ、「美味しかったから買いたい」という反応をいただけました。これは当社のCMOの神徳が企画したものですが、やはり体験していただくと購入率は上がるので、今後はそういう機会にも挑戦していきたいです。

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