ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #01

インターネットビジネスは性善説?「統計」で余計なコストが掛からない【BANK 光本勇介】

 ミレニアル世代を代表するビジネスパーソンに、アジャイルメディアネットワークの徳力基彦氏がインタビューする企画がスタートします。ビジネスが成功した背景やミレニアル世代へのコミュニケーション論を聞きながら、現代のマーケティング担当者が知っておくべき消費者の行動やその捉え方を探ります。第1回は、BANK 代表取締役兼CEOの光本勇介氏が登場。アプリ「CASH」の“性善説”に基づくビジネスモデルが生まれた背景から、光本氏が現代社会をどのように捉えているのかまで話を聞きました。
 

“性善説に基づいたサービス”リリースの意図

徳力 BANKが提供しているアプリ「CASH」は、洋服やバッグなどの対象アイテムの写真を撮ってアップロードすると、そのアイテムの査定額が出てすぐに現金として受け取られるサービスです。2017年6月のリリース初日から大きな話題になり、1日と経たないうちに3億円以上が現金化されました。

 始まったばかりのサービスが注目されるのは凄いことですが、BANKにとっては先に現金を支払っても査定したアイテムが実際に送られてこないリスクがありましたよね。つまり、まず人を信用しなければ成り立たないサービスで、光本さんはこれを“性善説に基づいたサービス”と表現されています。なぜそのようなサービスを思いつけるのでしょうか?
 
CASH(https://cash.jp/
光本 僕はビジネスモデルを考えることが、とても好きなんです。BANKを起業する際は、新しい会社で新しい事業にチャレンジしてみたいと思い、当時経営していた会社の代表を当時の役員と交代し、半年ほど幅広い業界を見て回りました。

 そのときに感じたのが、世の中の取引は「与信」で成り立っているということ。逆に言えば、世の中の取引は人を疑うことで成り立っているとも言えます。取引にはBtoB、BtoC、CtoCという形態がありますが、例えば個人間でお金を貸す場合もきちんと返してくれるかを無意識に考えて判断しているわけです。これはBtoBもそうで、初めて取引する会社の支払い能力を帝国データバンクなどで調べますよね。つまり、疑っているということです。

 このように世の中は人を疑うことが前提で成り立っているわけですが、実は人を疑うという行為は、すべてコストに当たります。

 例えば、日本全国の駅には自動改札機が設置されているでしょう。これが何のためにあるかというと、切符を買っているかどうかをチェックするためです。つまり人を疑っているわけですが、自動改札機には1台何百万というお金がかかります。大きな駅であればそれが何十台とあり、さらに全国には何万の駅があるため、鉄道会社がそこにかけているコストは莫大です。もちろん、仮に改札をすべてなくせば、キセル乗車をする人は絶対に現れます。しかし、もしキセル乗車によって被る損害よりも全国に自動改札機を導入するコストの方が高ければ、導入しない方がいいと思うんです。
光本 勇介氏
株式会社バンク 代表取締役兼CEO
10歳から18歳までデンマークとイギリスで過ごす。2004年青山学院大学卒業後、オグルヴィ・アンド・メイザージャパン入社。2008年ブラケット(現ストアーズ・ドット・ジェーピー)を設立し、代表取締役兼CEO就任。2013年ブラケットをスタートトゥデイ(現 ZOZO)に売却。2016年MBOを実施し、ブラケット取締役会長に就任。2017年バンクを設立し、代表取締役兼CEO就任。2017年「CASH」をリリース、その後DMM.comへ全株式を売却。2018年MBOを実施。

徳力 確かに、そうかもしれませんね。

光本 結局、リスクがあるからコストをかけて与信をとることになる。しかし実はリスクによって被る損害よりもリスクを減らすためにかかるコストの方が高い可能性があります。これまでに、それを検証した人はいないので、もし僕がリスクにかけるコストはもったいないということが実証できたら、それ以降は人を疑うためのコストをかけなくてもいい世の中になるわけです。

 実証にはリスクが伴いますが、僕には失うものがなかったし、おもしろい実験のネタを探しているタイミングだったこともあって試してみることにしました。それを“性善説に基づいたビジネス”と称し、人を疑わなくても取引が成り立つかどうかをテーマに会社を立ち上げたんです。

徳力 たしかに、人を疑うためのコストをかけなくてもいいことが証明されたら、世の中の事業やサービスのつくり方が根本的に変わりそうです。
徳力 基彦氏
アジャイルメディア・ネットワーク / 取締役CMO
NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。

光本 はい、大げさに言えば「世の中が変わる」と思います。そこに興味がありますね。

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