よなよなエールのマーケターが迫る!ファンベースの最前線 #02
レクサスに学ぶ「ファン育成」 鍵は人による“リアルな関係性”にあった
2019/02/18
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ファンベース・マーケティングの実践に力を入れている企業の代表例として知られる、ヤッホーブルーイング。この企画では、同社のマーケテイング・ディレクターの稲垣聡氏が、自社と同様にファンベースを重視する企業のキーパーソンや、ファンベース研究の最前線にいる有識者を訪ね、急速に注目が高まるファンベースの本質や、真の効果につながる取り組み方について考えます。
今回訪ねたのは、レクサスのブランド・マネジメントを長らくリードし、高級車をはじめとするプレミアムブランドや耐久消費財のマーケティングに詳しいA.T. Marketing Solutionの高田敦史氏。高額商品ブランドにおけるファンづくりの特性についてお話を伺いました。
今回訪ねたのは、レクサスのブランド・マネジメントを長らくリードし、高級車をはじめとするプレミアムブランドや耐久消費財のマーケティングに詳しいA.T. Marketing Solutionの高田敦史氏。高額商品ブランドにおけるファンづくりの特性についてお話を伺いました。
最近、ヤッホーブルーイングのファンベース戦略について、様々な機会でお話をすることが増えてきました。その際、参加者の方から「自社の商品の場合、どのように適用すればよいか?」という質問をよく受けます。たしかに、商品の価格、購買の頻度、利用シーンが違えば、ファンに対するマーケティング戦略も、おのずと異なってくるはずです。
たとえば、ビールとは正反対の特徴を持つ高額な耐久消費財ではどうでしょうか。高額な耐久消費財のファンには、どんな特徴があるのか。また、どのように顧客をファンにしていくべきなのでしょうか。
プレミアムブランドこそ、人によるコミュニケーションが肝要
稲垣 われわれが扱うビールのようなパッケージ商材は、顧客はおおよそ一定の頻度で購買しますし、また金額も安いので、ブランドと顧客とのエンゲージメントは、比較的気軽かつ高頻度に行うことができます。結果として、ファンベース戦略をスムーズに進めることができるという側面があると思います。一方、高額商品は、そう頻繁に購入するものではありません。たとえば自動車の場合、顧客がディーラーとコミュニケーションを取るのは年1回の定期点検の時だけというケースも珍しくありません。
高田 高額な耐久消費財と、ビールのようなパッケージ商品を比較すると、重要な相違点が3つあると思います。1つは、「そう気軽に購入しない」ということ。自動車を例に説明すると、特殊なケースを除いて、今日いきなり「あ、そうだ、クルマ買おう!」という人はまずいないですよね。ですから、CMを出稿すれば、すぐに商品が動くということもありません。
2つめは、購買頻度が極めて低く、さらに反復購買までの期間が非常に長く、購買時期が予測できないということ。現在、日本における自動車の平均保有年数は5~8年です。加えて、営業マンが既存顧客の買い替え時期を正確に予測することは困難です。
3つめは、購買意思決定に顧客本人以外(たとえば家族)の意向も重要であるということ。特にクルマや不動産がそれに当たります。もちろん同じ高額商品でも、時計や貴金属・宝石といったものは、本人の意思が重要になります。
そうした特性を踏まえて顧客とのコミュニケーション戦略を構築する必要がありますが、このとき、自動車、特に高級車の場合は、新規顧客の獲得は「既存顧客からの紹介」が大きな割合を占めます。したがって、顧客としっかり関係性をつくり、ファンになってもらうという手法は、マーケティングにおいて極めてまっとうな方法だと思います。もちろん、自動車販売のビジネスモデルの特性として、売上の半分を点検整備等のサービスが占めるということも理由のひとつです。
高田 敦史 氏
A.T. Marketing Solution 代表
元トヨタ自動車、レクサスブランドマネジメント部長。1985年にトヨタ自動車入社後、宣伝部、商品企画部、海外駐在(タイ、シンガポール)、トヨタマーケティングジャパンMarketing Director 等を経て、2012年からグローバル規模でレクサスのブランディングを主導。2016年7月に退社し、A.T. Marketing Solutionを設立。
A.T. Marketing Solution 代表
元トヨタ自動車、レクサスブランドマネジメント部長。1985年にトヨタ自動車入社後、宣伝部、商品企画部、海外駐在(タイ、シンガポール)、トヨタマーケティングジャパンMarketing Director 等を経て、2012年からグローバル規模でレクサスのブランディングを主導。2016年7月に退社し、A.T. Marketing Solutionを設立。
稲垣 高級車のような、製品の機能的なベネフィットやデザインで差別化が可能と考えられる商材でも、新規顧客獲得のためには、人による関係性づくりがより重要だというのは意外です。
高田 もちろん、製品のファンという側面が強いブランドもあれば、サービス・人のファンという側面が強いブランドもあります。レクサスの場合は、後者がより強い「サービスと品質」のブランドと捉えることができます。
先ほど言ったように、自動車の場合は「購買までの検討期間が長い」「顧客の購入(買い替え)時期がわからない」「購入者以外の意見も重要」「既存顧客は点検の時しかディーラーに来ない」といった特徴がありますから、人による継続的なコミュニケーション等によって顧客の普段の生活の中に自然に入り込み、ブランドを意識してもらうことが必要です。
具体的な手法としては、定期点検のときにはしっかりディーラーに来てもらうことはもちろん、特に用事がなくても、適度な頻度で連絡をする。あるいはハード面での施策としては、ディーラーに「オーナーズルーム」をつくって訪問しやすくしたり、地方のショッピングモールの近くのディーラーなら駐車場代わりに利用してもらうなども有効です。
このように普段の生活のあらゆる場面で顧客と直接会う機会を設けて、関係性が途切れないようにし、ファンになってもらうことが、推奨による新規顧客の獲得にもつながっていきます。
稲垣 そうして関係性が強くなり、ファンになった新規顧客は、どのような推奨行動をとるのでしょうか。たとえばビールの場合は、気軽にSNSに投稿したり、飲みに行ったときに奨めたり、といった行動が多いのですが。
高田 高級車の場合は、首都圏よりも地方において、既存顧客による推奨が絶大な力を持ちます。私が知っている、ある地方のレクサスユーザーで、非常に多くの新規顧客を紹介してくれる人がいるのですが、「紹介そのもの」がさらなる顧客満足につながるんですよね。「あの人には自分がディーラーを紹介した!」というのが自慢になるわけです。
もうひとつ面白いのは、クルマではなくディーラーを紹介するということです。自分が紹介した人が、ほかのディーラーでレクサスを買っても、あまり意味がないようです。このエピソードからも、顧客はレクサスブランドのファンであると同時に、それ以上にディーラーのファン、さらに言えば営業マンのファンであるといえます。
究極の営業マンのあり方は「顧客が謝ってくること」とも言います。それはたとえば、父親が顧客だったとして、息子が競合ブランドの車種を買ってしまったときに、「申し訳ない!今回はどうしても!」と謝られるような関係です。こういう方は、新規顧客を紹介してくれるロイヤリティの高い顧客です。