ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #02

「ワーストケースを定義すれば、起業やチャレンジは恐くない」BANK光本勇介氏が語るマーケティング論

ワーストケースを定義すれば、起業やチャレンジは恐くない

徳力 光本さんのお話を聞いていて、ネスレ日本の「ネスカフェアンバサダー」の話を思い出しました。オフィスグリコはグリコのスタッフが補充も掃除も行いますが、ネスカフェアンバサダーは、それもお客さんがやってくれています。

 ある意味、企業側が本来かけなければならないと思っていたコストが全部なくなり、驚くほど利益率のいいビジネスができています。ただ、やはり最初はそのモデルが本当に機能するのか分からないので、小さな規模の実験から始めたと聞いています。正直、やってみなければ分からないんですよね。

光本 そうだと思います。僕も周りの人から「勇気があるね」と言われますが、実はどんな事業、どんなチャレンジでもワーストケースを自分の中で想定しています。だからすごくリスクがあると思われても、自分たちで最悪どうなるかを明確に想像、あるいは定義できていれば、実はそんなにリスクは大きくないことが多いんです。



徳力 確かにそうですね。CASHはリリース初日に3億円以上が現金化され、サービスを止めましたね。

光本 最大でも1億だと考えていたので、さすがにやり過ぎました(笑)。

徳力 あの瞬間は、やってしまった!という思いがあったんですね。ユーザーの半分が悪人で、アイテムを回収できなければサービスは破綻してしまいますよね。

光本 はい。あのときのワーストケースは、振り込んだ金額です。逆に初めからそれを限定しておけば、リスクも限定できるというわけです。

徳力 もしワーストケースが現実化したとしても、少なくともリサーチ結果は得られるということですね。ビジネスモデルを考えることが好きな起業家ならではのスタンスですね。

光本 そうですね。仮に誰からもアイテムが送られてこなかったとしても、振り込んだお金はリサーチ費用だと捉えればいいのです。あるいは、先ほど大企業で同じような新規事業を起こそうと思っても上司を説得する自信はないと言いましたが、プロモーション費用として予算をとってしまう方が早いかもしれません。

徳力 面白い視点ですね。結果的に、ポートフォリオ全体の組み合わせで成果が出ればいいわけですよね。実際、新しいマーケティング手法を試している人は、全体の予算にしれっと混ぜて実験をしているケースが多いですよね。ネスカフェアンバサダーを始めたネスレの方も、同じようなことをおっしゃっていました。

光本 失敗することを恐れて起業やチャレンジへの一歩が踏み出せない人はたくさんいますが、その一歩は実験とも呼び変えられます。実験には失敗が付きものです。実験は失敗して得られたものも成果になるため、もちろん成功も、そして失敗も、どちらに転んでも正解なわけです。僕は、成功するよりも失敗したときの方が得られる経験や学べる知識は多いと考えています。

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