マーケティングで社会課題を解決できるか #03

「お前の趣味に、お金を使えない」リクルートでの精子ビジネス立ち上げをどう説得できたのか

前回の記事:
プライベートな行為を慣れない環境で。医療機関での精液検査の「負」と向き合う

お前の趣味に、お金を使えない

 前回は、スマートフォンで簡単に精子のセルフチェックができる「Seem」の開発までの流れをご紹介しました。今回は、まったく新しい領域での挑戦だった「Seem」をリクルートライフスタイルの事業としてローンチするまで過程についてご紹介します。

 「Seem」のコンセプトが完成したあと、いざプロトタイプをつくる段階になると、当然開発費が必要になります。世の中に無いサービスだったので、実現可能性を検証するためにはプロトタイピングが必須でした。

 リクルートライフスタイルは、旅行、飲食、美容、その他日常消費領域に関わるカスタマーの行動支援およびクライアントの業務支援・決済サービスの提供を行っています。また、私が所属しているネットビジネス本部という部署は、「じゃらん」「ホットペッパービューティー」「Airレジ」などの開発・運用を行っています。

 ヘルスケアの領域で、しかも「ものづくり」というこれまでまったく実績も知見もないビジネスへの投資を、「スマートフォンで精子のセルフチェックをできるようにしたい」というアイデアの説明だけで取りにいこうとしたところ、上司からは「お前の趣味に、お金を使えない」と一蹴されてしまいました。
 
スマートフォンで簡単に精子のセルフチェックができる「Seem」
 

一次情報の積み重ね

 事業化の判断を勝ち取るためには「Seemが世の中に提供できる価値」をより明確化する必要がありました。自分がつくりたいという思いだけではなく、どうすれば世の中に「なくてはならないサービス」にすることができるのか。「Seem」が解決できる課題の“解像度”を上げるため、一次情報に広く触れ、課題を深掘ることからスタートしました。

 まずは友人や知人に協力してもらい、現在妊活中の人やこれから妊活を始める人、まだ独身だが将来子どもをほしいと思っている人にインタビューを重ねていきました。

 そこでわかったのは、男性の当事者意識の低さです。女性は現在や将来の妊活について真剣に考え、自分のライフプランに妊活・妊娠・出産を織り込んでいる人が多かったのですが、男性は「いつかは子どもが欲しいが、具体的には考えていない」という人がほとんどでした。

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