日本の広告費

広告コミュニケーションのプロたちは、「日本の広告費2018」をどう読み解いた?

 電通が毎年、発表している「日本の広告費」。国内の広告費がどの媒体に投下されているのか、現状がわかる調査として注目されている。ニューバランスジャパン 鈴木健氏、ブルーカレント・ジャパン 本田哲也氏、吉野家 田中安人氏、ALPHABOAT 西谷大蔵氏、エトヴォス 田岡 敬氏、ソネット・メディア・ネットワークス 谷本秀吉氏ら広告・マーケティング領域の6人のプロフェッショナルが先週、発表された「日本の広告費2018」をどのように読み解いたのか、解説する。
 

マス媒体のコンテンツ力に可能性

ニューバランスジャパン
DTC&マーケティングディレクター
鈴木 健氏

 インターネット広告費の上昇に驚きはないが、マスコミ4媒体由来のデジタル広告費が興味深かった。雑誌広告費はマイナス9%で1841憶円だが、雑誌由来のデジタル広告費は2桁成長で337億円と、全体としては減少しているものの成長している面もあった。

 出版メディアは、プラットフォームにはないコンテンツ力が武器であり、ここにもっと可能性があると思う。また、テレビのデジタル費用も105億円と小さく、コンテンツ力で言えば、まだまだ可能性があるように思う。
 

交通広告に期待、PRやSNSを組み合わせて拡散

ブルーカレント・ジャパン
代表取締役社長
本田哲也氏

 誰が見ても一番のポイントは、インターネット広告が地上波テレビに迫ったという点だろう。そうした中で、私が注目したのは交通広告だ。前年比で減っているメディアもある中で堅調に伸びている。訪日外国人の増加などもあって、都市部を中心に価値が見直されている。交通広告や屋外広告をPRやSNSと組み合わせて拡散させていく手法は、カンヌライオンズでも定番化されていて、日本でも可能性を感じる。

 さらにPRの専門家という視点から話をすると、企業は広告とPRを最適なバランスで投資したいと考えている。特にマーケティング活動の中でのPRの重要性が浸透し、メディアをバイイングするだけでなく、戦略的なPR活動でどう露出するかも大事になっている。しかし、この調査はあくまで媒体別のスペンディング統計であり、当然ながらそうした数値は見えてこない。統計調査としては、もちろん価値があるが、現代マーケティングの本質的な議論やトレンドからは外れてきているのかもしれないと感じる。
 

「顧客心理の探究の旅」が始まった

吉野家
CMO
田中安人氏

 マーケットの行動様式が数字で表現されていると感じた。インターネット広告費(バーチャル)の増加は、ユーザーの行動様式が変化している予兆である。その反面、コンサート、スポーツなどを含む、現場の集客力が増加していることを考えると、バーチャルな体験が増えることで「リアルな体験」に価値を求める傾向が顕著に現れたと認識すべきであろう。

 それは「CX(カスタマーエクスペリエンス)」の追求において、すべての顧客接点で同じ感動体験を提供しなければ、ブランドは生き残れないということではないか。しかし、まだリアルとバーチャルの戦略設計で、勝ちパターンは発見されていない。その答えは、カスタマーのインサイトの中にしか存在しないため、「顧客心理の探究の旅」が始まったと感じている。
 

デジタル広告への投下には、企業間で相当な幅がある

ALPHABOAT LLC
社長
西谷大蔵氏

 テレビからデジタルへのシフトという文脈ではなく、デジタルそのものの割合(%)と、その中身に注目している。デジタル広告費の構成比率が、2016年の20.8%、17年23.6%、18年26.9%(注:媒体費だけではなく制作費込)と伸張してきた。そしてこの比率、皆さまが日々担当しているブランドと比べてどうだろうか。実際には千差万別で、「一桁%しかデジタルに投下していない」といったブランドも多く、一方でデジタル広告への投下に積極的に取り組むブランドや企業もあり、相当な「幅」がある中での、この構成比率なのではないか。

 デジタルに積極的なブランド、まだまだこれからのブランド。日本全体で俯瞰してみると「戦線が伸びている」ということだと思うが、今後のデジタル広告を語るには、テレビと比べて金額が多い少ないではなく、デジタル広告でも「広告=リーチ」と「狭告=狭くターゲティングする “狭告"」の両立を、単なるブランディングの是非を部分最適で論じるのではなく、きちんとはかる(図る&測る)必要性が高まっているのだろうと思う。今後の日本のデジタル広告がある意味コンバージョン偏重のままで「来年はテレビを抜く」といった論議をするよりは、その方が良いバランスと明るい将来性があるのかなと思う。

 今回発表の2018年日本の広告費の中で、あえて「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」のジャンルをデジタル広告の項目の中でわざわざ新設してまで発表したのは、その広告と狭告の両軸を「安全・安心なブランドセーフティー」という世界的に待ったなしの要請とセットで、バランス良く、ポートフォリオを組んで展開するのが重要だというメッセージが根底にある。
 

目的別の利用状況の変化に興味がある

エトヴォス
取締役 COO(最高執行責任者)
田岡 敬氏

  ネット広告費が伸び、マス4媒体、特に新聞と雑誌が減る、という大きな流れに変化はなく、そこにはもうトピックスはない。この結果を使って、ネット広告費を増やすべし、という社内プレゼンをする会社も減っているだろう(笑)。

 それよりも興味があるのは、一口にネット広告と言っても認知獲得を目的とした動画から、健在層の刈り取りのためのリスティングなど、その目的別の利用状況の変化だ。マス4媒体は媒体ごとに使う目的が狭めだったが、ネット広告は使う目的が幅広く、インターネット広告市場全体を語っても、もはや余り意味がない。ネット広告の使い方やマス4媒体との組み合わせ方、それら費用の媒体別分配率などは、各社各様であり、昔と違って広告市場全体の媒体別構成比のように予算を分配している会社もないだろう。各社に最適化された個別高度なコミュニケーションプランニングが求められる時代になり、スキルや経験の大きな偏在を感じる。
 

運用型広告が伸びた一方で、アドフラウド対策などを危惧

ソネット・メディア・ネットワークス アドテクノロジー事業
執行役員
谷本秀吉氏

 注目した一つ目は、運用型広告が1兆1518億円(前年比122.5%)と、順当な伸びだった印象を持つ一方で、アドフラウド対策やブランドセーフティへの言及があることだ。事業レイヤー単位ではなくインターネット広告全体の対策強化が求められ、業界の信頼を揺るぎかねない問題だと危惧している。

 二つ目は、「効果の可視化」についてだ。インターネット広告に定着している、コンバージョン率やCPAだけでは、その活用目的を狭めてしまう。例えば、ターゲティングした広告のターゲットオン率や、アッパーファネルを狙った広告のブランドリフト効果など、目的に応じた効果指標の設計と、正当な評価方法の構築が必要と考えている。

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