NO MONEY BUT LOVE. 意義ある地域案件に、クリエイティブはどう向き合うか。 #01

「あんたらもまた夕張を食い物にするのか!」クリエイターとしてのエゴに気づかされた一言

はじまりはクリエイターとしてのエゴだった。

 「金はないけど愛はある!」10年以上前に私がはじめて地域プロモーションを手がけた時につくったフレーズだ。奇しくも今も時折直面するテーマでもある。

 このコラムでは様々な地域プロモーションに関わるなかで「お金はないけど意義や価値がある案件」との向き合い方や仕掛けたプロモーションを一過性で終わらせず、継続・拡大するための考察などを綴っていこうと思う。

 2007年3月。北海道夕張市は、353億円の負債を抱えて財政破綻した。テレビから流れてきたニュースを観て「ここまで名のある市でも潰れるのか」と驚いた記憶がある。

 当時の私は30代前半で、外資系広告代理店にいた。広告クリエイターとして焦りともがきの最中にあり「自分の考えた面白いアイデアを世の中に出して有名になりたい!」と常にチャンスを狙っていた。そんななか、夕張市のある記事を見つけ、釘付けになった。

 夕張市の潰れた観光施設の再生を担った夕張リゾートという会社が「負の遺産ツアー」を行ったというのだ。全国の自治体関係者を夕張市に招き、廃墟となった街や施設を見て回り、こうならないように勉強してもらうという何とも自虐的な施策だった。

 私はその逆境を逆手に取った発想と実行力に運命を感じ、すぐさま夕張リゾートの社長にアポイントを取り、アイデアを自主プレゼンするために夕張市に行った。「夕張夫妻」というキャラクターをつくり「負の負債」を「愛の夫妻」へとイメージを変えていくプロモーションを提案し、我々の全面ボランティアというカタチで実行する運びとなった。

 当時の夕張市長もボランティアならと応援をしてくれた。
 
キャラクター「夕張夫妻」
 そして提案から1カ月後「夕張夫妻」をメディアにお披露目するPR会見が行われた。その会見の様子は、当日のローカルニュースで報道された。その様子を地元の寿司屋のテレビで見ていた我々は興奮し、手をとり喜び合った。しかし、その直後に私の考えを、いや人生を大きく変える一言がカウンター越しから落とされた。

 「あんたらもまた夕張を食い物にするのか!」

 寿司屋の店主から烈火のごとく怒られたのだ。もちろん彼は我々がボランティアでやっていることは知らない。しかし夕張市は炭鉱から観光へと街の再建を始めた時に、外からやってきた「よそ者」たちの話に乗り、巨額の資金を投じて博物館や遊園地などの箱モノを建設、その借金が膨れ上がり、街がつぶれた経緯があった。

 店主から向けられた「よそ者」を見る目に、私はクリエイターのエゴで喜んでいたことに気づかされた。
 
夕張市長との記者会見の様子(2007.9.7)

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