ほろ酔いマーケティング談義 Tipsy Tips for Marketers #01
魅力的なカクテルから、ストーリーテリングの大切さが見えてくる【バカルディ 須田伸】
個人的感情の吐露から生まれた「ストーリーの持つ拡散力」
先述の通り、岡沼さんは青森県八戸市で「Shadow Bar」というバーを営んでいます。他のファイナリスト4人が東京でバーテンダーとして活動している中で、人口もバーの数もずっと少ない八戸でプロモーションを行うことは、大きなハンディキャップになる可能性がありました。しかし、岡沼さんは限られた時間の中で、まず地元八戸で10人のJリーガーや実業家、アーティストなど、様々な職種の「昨日の自分を超えたいプロフェッショナル」とのコラボレーションイベントを実施し、同時に八戸の他の有名バーでEvolverを提供してもらう、というプロモーションを行いました。
こうして八戸で生まれた熱を、次に東北地区でのプロモーションに発展させ、その内容をFacebookで紹介し、さらに東京、大阪へと足を延ばし、Evolverを広めていきました。
また、自分は直接足を運べないところにも、Evolverのコンセプトやレシピを紹介したキットを作成し、日本中の影響力のあるバーテンダーたちによってEvolverが広まっていきました。さらには親交のあったシンガポールとドイツのバーテンダーにもキットを送り、彼らの手を経てEvolverが海外のバーのゲストにもサーブされました。そして岡沼さん自身が中国上海に渡って、あの後閑信吾さんのお店Speak Lowでゲストバーテンダーとして直接お客様にEvolverをサーブしたのです。
こうした広がりのあるプロモーションをつくれたのも、Evolverのコンセプトが国境を越えて多くの人が共感できるストーリーだったからだと思います。
同時に、青森県八戸市という東京に比べて小さいコミュニティだからこそ、大きな熱量をつくれたのではないかと思います。岡沼さんのプロモーションを見ていて「コアな熱量が高いことこそが、現代における広がりをつくるための条件である」と、過去に私に説いてくれた二人のことを思い出しました。
秋元康さんと柳瀬博一教授の言葉
一人は、作詞家の秋元康さん。AKB48を立ち上げる直前のタイミングで「なぜ秋葉原で、なぜ会いに行けるアイドルなのですか?」と質問したサイバーエージェント時代の私に「最初からマスメディアに乗せてブームをつくれる時代はもう終わった。これからは例えば秋葉原のような今、地熱があがってきているスポットで、実際に会うことによって生まれるエネルギーをマグマのように作り出すことが、やがて日本中を巻き込むようなうねりにつながるのだ」と、話してくれました。この時の秋元さんの言葉が正しかったことは、既に歴史が証明しています。もう一人は、東京工業大学でメディア論を教えている柳瀬博一教授。当時は日経BP社の編集者で、日経BPがロンチしたばかりのウェブメディア「日経ビジネスオンライン」で連載コラムを書くことになった私に対して「今は、最初からみんなに受けることを狙ったものは、見透かされてスルーされる。むしろ、暴論でもいいから、自分の中の強い気持ちから沸き上がった、マニアックな辺境のアイディアのみが、広く受け入れられていく可能性を持っている。だから、広告の一般論ではなく、デジタルの最前線で起きていることをそのまま書いて欲しい」と、道しるべとなる言葉をくれました。
奇しくも、ほぼ同じタイミング(今から14年前の2005年)に二人からもらった言葉の正しさを、今回の岡沼さんのプロモーションの広がりでも感じることができました。
歴史に残るカクテル、レガシーカクテルをつくるための世界大会は5月10日からオランダ・アムステルダムで開催されます。岡沼さんが優勝して世界チャンピオンになるように、私たちバカルディジャパンとしても全力でサポートしていきます。
最後にEvolverのレシピを紹介します。
・バカルディスペリオール 40ml
・マルティーニビター 15ml
・ベルベットファレナム 15ml
・フレッシュレモンジュース 15ml
・アブサン 3dashes
・マルティーニビター 15ml
・ベルベットファレナム 15ml
・フレッシュレモンジュース 15ml
・アブサン 3dashes
上記のすべての材料をシェーカーに入れシェイクする。ダブルストレインでグラスに注ぎ、最後にオレンジピールを振りかけ、グラスのふちにオレンジピールを飾り付けて完成。
私も何度か飲ませていただいたのですが、すっきりとしたフレッシュな味わいの中に微かな苦みが感じられる素敵な一杯です。シェイクが必要なので、普通のご家庭で簡単につくれるカクテルではないのですが、会社や自宅の近所のバーに行ったときに、バーテンダーの方にこのレシピを見せて、つくってもらってみるのも楽しい体験になると思います。
このカクテルを飲みながら、自社のマーケティングやプロモーション活動を考えてみると、何か新しいインスピレーションが生まれるかもしれません。
Enjoy Cocktail! Enjoy Life!