ブロガー視点の「マーケティング徒然」 #02
DELLが「パソコン人気ランキング」で下位から上位になれた背景に学ぶ、覚悟と分析力【徳力基彦】
2019/03/27
マーケティング方針を大きく変えて成功
「DELL(デル)」と聞いて、皆さんは何をイメージするでしょうか?ノートパソコンでしょうか?
デスクトップパソコンでしょうか?
人によっては黒いパソコンというイメージや、法人向けというイメージを持っている人もいるかもしれません。また、直接販売のビジネスモデルをイメージする人も多いでしょう。
従来、パソコンのビジネスモデルは、メーカー側がある程度、決め打ちで組み上げたモデルを家電量販店などの店頭で販売するのが一般的だったのに対して、デルは顧客からの要望に合わせて製品をカスタマイズして中間業者を介さずに直接販売する「ダイレクト・モデル」を確立しました。その直接販売と受注生産を組み合わせた画期的なビジネスモデルで、大きく飛躍したことをご存じの方は多いはずです。
ただその一方で、ダイレクト・モデルのイメージが強い分、日本の消費者からするとデルは「法人向け」「男性向け」「低価格」というイメージが強くなってしまった時期があるそうです。
そのため、購入したいパソコンについて調査すると、最下位に近くなってしまうことが多かったんだとか。
しかし、数年前にマーケティング方針を大きく変えるという判断をしてからは、そうした固定的なイメージは徐々に払拭され、現在では購入したいパソコン調査で2位にまで浮上するようになったそうです。
実際に、この記事の執筆時点で「価格.com」のノートパソコンカテゴリでは、デルの「Inspiron 14」が人気売れ筋ランキング、注目ランキング、満足度ランキングの3部門で1位に輝いていました。
先日、開催されたマーケティングイベントで、同社のコンシューマー&ビジネスマーケティング統括本部で部長を務めている横塚知子氏のお話を詳細にお聞きする機会があったので、そのお話からご紹介したいと思います。
キーワードとしてあげるべきは、「徹底したデータ分析」と「覚悟」です。
テレビCMを止めたことによる悪影響
デルは、マーケティング費用をコンバージョンに確実につながる広告枠に投下するという自社のスタイルについて、外部調査も含めて様々な角度から分析したと言います。その結果、コンバージョン施策のマーケティングROI(投資対効果)は、ある一定の金額を超えると非常に効率が悪くなり、一部の投資が過剰になっていることが判明します。そこから、テレビCMなどのブランディング施策や、ソーシャルメディアを組み合わせたエンゲージメント施策に予算をシフトする必要が見えてきたそうです。
興味深いのは、デルは、さらにその数年前にかなりの金額をかけて投下していたテレビCMをやめていたという点。実は当時、テレビCMの効果が薄れてきていたため、思い切って止めてみたところブランドスコアが変動しなかったんだそうです。それで、その後の数年はテレビCMを実施しないという判断をしていました。
先ほどの調査の結果、実は時間が経つにつれてテレビCMを打っていないことによる悪影響が徐々に出始めているという仮説が浮かび上がってきます。
こうした事例は、実は広告業界でよく聞くケースです。
過去にも、パナソニックが石油温風機での事故を受けて、全商品のCMを自粛して「お詫びCM」を放映したことがあります。その結果、広告露出が激減したのですが、そのタイミングでパナソニックのプラズマテレビ「VIERA」の売上は下がるどころか伸びて、話題になったことがあります。
これはもちろん、パナソニックの真摯な姿勢自体が消費者から評価されたということも影響していると考えられますが、テレビCMには即効性だけではなく繰り返し放送したことによる認知の蓄積効果があるため、一時的にやめたとしても、その直後は効果が持続していたということが考えられるでしょう。
ただし、やはりデルの社内でも、過去に放映を中止しても影響がなかったテレビCMを復活するということに対して、疑問の声が多数出たそうです。
そこで横塚さんが選択したのは、テレビCMを小さく再開しながら様々なデータ分析を行い、コンバージョン目的のネット広告に特化するよりも効果が高いことを証明するという道です。
当然、デルはネット通販が中心のビジネスモデルのため、実施した施策の反応がすぐに確認しやすいという特徴があります。量販店販売が中心のメーカー企業からすると真似しにくいと思いますが、このデータを中心に分析することで証明をしていくという姿勢は、どの企業にとっても重要だと思います。
こうした姿勢はテレビCMだけでなく、Webサイトやエンゲージメント施策でも見られます。