ほろ酔いマーケティング談義 Tipsy Tips for Marketers #02
デジタルの渇きは、アナログが癒す。若者の孤独感は、世界共通のインサイト
ビデオ会議で出張が不要な未来はやってくるのか?
外資系の会社に勤務していると否応無しに発生するのが、海外の同僚たちとの電話会議であり、ビデオ会議です。
電話でダイアルインして参加する音声のみの場合もありますが、BlueJeans社、Zoom社が提供するような非常に高精細な画質でのビデオ会議システムだと、相手側の会議室のデスクの上に置かれたスナック菓子やソフトドリンクのブランド名やフレーバーの種類まではっきりわかるほどで、テクノロジーの進化によって便利な世の中になったなと思います。
しかし、こうしたビデオ会議システムの品質が今後さらに向上したとしても、飛行機に乗って出張して直接合う、ということの価値は減るどころかむしろ上がっていくと思います。
なぜ私がそう思うかと言うと、ビデオ会議でしか話をしたことのない相手との会議の生産性と、一度でも実際に会って食事やお茶をしたことのある同僚とのビデオ会議の生産性では、コミュニケーションのスピードも、質も、圧倒的に後者の方が優れている、ということを経験的にわかっているからです。
ビデオ会議だと、冒頭に多少なりともアイスブレイクで仕事以外の話をしたとしても、それはあくまでも限られた時間の中での、ある種儀礼的な雑談であり、本当に相手の週末の出来事や家族の話を突っ込んで話し始めることが許されている場ではないことをお互いに了解しています。その後の本題においても、どこか相手を完全に信用していないというか、心を許していないというか、一見で初めて入ったお店でのやりとりのような、お互いの外堀から確認をしていくようなコミュニケーションになりがちです。
ところが出張して、ランチ、あるいはコーヒーブレイクでも、ディナーでも共にする時の会話は、アイスブレイクのための世間話というよりも、本当の意味での無駄話や与太話ができて、相手の人となりをより多面的に理解することが出来ますし、こちらも相手に自分がどんな人間なのかごく自然に伝えることが出来ます。そんな会話の中から共通の趣味や食べ物の好みなどがわかるとさらに相手を身近に感じるようになります。
最近だと、食事をしながら自分の携帯電話を見せて、どんなポッドキャストを聞いているかを話すことが多いです。アメリカの公共ラジオNPRが提供している「How I built this」という起業家のインタビューのポッドキャストが私のお気に入りなのですが、先日もドバイから来日して一緒にランチやディナーを一緒にした同僚との会話の中で彼もまたこのポッドキャストの大ファンであることが判明し、いくつかの過去に登場した起業家のエピソードについて話をするだけで、ぐっと距離が縮まるのを実感しました。
こういうリアルな空間での共通体験を一度でもしておくと、その後のビデオ会議のクオリティが格段に上がりますし、なかなか話がうまく進まない時でも「今日は体調が悪そうだから、後からメールでフォローアップすることにして、手短にまとめよう」といった相手を思いやった現実的な判断もできるようになります。
グローバル企業の多くが、時に億単位のお金をかけて世界中のセールスチームを一堂に集めてコンベンションを開催したり、夜にはディナーやパーティを催して、普段直接やり取りする機会の少ない人たちが交流できる場を設けるのも、こうした投資が確実に大きなリターンを生むことを知っているからに他なりません。
デジタルテクノロジーが発展すればするほど、コインの裏表であるアナログな、同じ空間を共有することや、食事を一緒にすることの価値もまた増大しているのです。