ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #03
大手企業も「弱み」を見せるべき? けんすうが語るミレニアル世代から支持される条件
キュレーション問題と同じことが、マーケティングの世界でも起きている
徳力 実はキュレーションサイトの問題と同じようなことが、マーケティングの世界でも起きていると思います。例えば、コミュニティを活用したマーケティングの成功事例としては、ネスカフェアンバサダーが挙げられます。
起案者の津田さん(元ネスレ日本 津田匡保氏)が東日本大震災を支援しにいった際、被災地の仮設住宅へバリスタを持って行ったところ、引きこもりがちだった人々が無料のおいしいコーヒーを求めて集まるようになって、コミュニティが再結成されたという経験がもとになっていると聞いています。そして、コーヒーの素晴らしさをみんなと一緒に伝えたいから手伝ってほしいと、アンバサダーを募集する「ネスカフェアンバサダー」を始めました。
この場合もnanapiと同じように、みんながある意味、自発的に動いているから、本来であればネスレの社員がやるべき補充や集金、掃除をお客さんがしてくれます。そういう意味で非常に利益率が高い構造になっているはず。一方でアンバサダーであるお客さん側も、ネスカフェアンバサダーを始めたおかげで職場に会話が生まれたと喜ばれるケースが多かったと聞いています。
でも、ネスカフェアンバサダーの表面上の仕組みだけを真似したところで、魂が抜けてしまって、あまりうまくいかないんですよね。場合によってはコミュニティに人が集まらなかったり、ファンとは思えない「インフルエンサー」に小銭を払って、ヤラセ的な投稿ばかりさせてしまったりしがちです。コミュニティを活かしたビジネスを他の場所でも成功させるには、どうしたらいいのでしょうね。
けんすう 難しいですね。まず、よくある失敗は、お客さまに働いてもらうとタダじゃないかと思って表面的な施策だけを真似て、とても“悪(あく)のもの”ができあがるということです。
徳力 タダは悪いから、3000円くらい払おっか、みたいなサービスもありますよね。
けんすう はい。「お客さんのやりがいや楽しみを刺激し続ける」という仕組みを真似するのは、原理的には可能だと思うんですよ。それを最も正しく実行しているのは、おそらくGoogleで、ユーザーのあらゆる行動を機械学習に生かしています。
徳力 たしかに、GoogleとFacebookが社会から批判をされているのは、その文脈ですね。
けんすう Googleに勤めていた人から聞いたのは、言い方は悪いですが、自分たち社員の行動もずっと機械学習のエサにされていて、最終的に人は切られるのだろうなと感じていた、という話です。
その人は、いきなり2週間の海外研修を命じられたときも、これは社員が2週間いなくなったらどうなるかという実験で、そのデータをもとに改善が行われて、最終的には自分がAIに置き換わるという感覚だったと言っていました(笑)。
徳力 それは、おもしろいですね。本当かどうかはともかく、それほど日々の仕事でデータをもとに分析と改善を繰り返していたということですね。
けんすう そうです。その人は、面接官も担当していたのですが、質問はすべて決まっていて、それに対する回答もすべてデータに基づいて機械的に判断されて、基準値に達すれば採用という形だったそうです。
現在は、また別の形かもしれませんが、Googleは定性的な部分も定量に置き換えて、将来的には機械を使って採用活動することを見据えているのでしょう。僕は、そこにあまり魅力を感じないのです。