ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #03

大手企業も「弱み」を見せるべき? けんすうが語るミレニアル世代から支持される条件

北朝鮮ですら変わっている、大企業も「弱み」を見せては?


徳力  おそらく若い世代がネットに対して持っている感覚は、けんすうさんに近いのだと思います。お金や効率性も大事だけど、どちらかと言えば、つながることや自己承認欲求を満たされることの方が喜びになる。それをカルチャーの違う大企業の人にも理解してもらうには、どうしたらいいのでしょうか。

けんすう  企業が行う施策は、基本的に一貫性が大事で、いわば「線」でつながっていることが大事です。なので、いきなり「ユーザーを巻き込んだ施策をしましょう」といったような、「点」の施策を真似してもいびつになるだけです。リクルートもKDDIも自分たちとお客さんを切り分けて考える方法で成功しているので、無理に変える必要はないと思います。



徳力  でも今後、大企業が若い世代をターゲットにしたときに苦しむのではないかと思うのですが。大企業は、どういうやり方ならインターネット企業的なコミュニティを重視するやり方をできると思われますか。

けんすう  本気で遺伝子ごと変えるのであれば、できると思います。実は最近、北朝鮮の政府が行う国民向けの施策が成果を上げていると思います。これまで北朝鮮の指導者は、メディアを使って、自分が完全無欠で偉大であることを示してきましたが、今の金正恩は苦労している様子など、一緒に汗をかいている姿を見せているらしいんです。

大企業も同じで、マスメディアのみが情報源だった時代は、思いどおりにイメージを確立することができましたが、インターネットの時代には人々のうわさ話がとても力を持ってしまう。それならば、最初から弱みを見せて、応援してもらう形にしようとしていた方がいいかもしれません。

徳力  北朝鮮ですら、変わっているのは驚きです。実際、大企業の中でも、けんすうさんがおっしゃるように、開発者として苦労している、または新規事業担当者として悩んでいる姿を見せることで、ユーザーをうまく巻き込んでいるパターンは結構あると思います。

けんすう  多分、この話にはポイントが2つあって、ひとつは苦労を外に見せて応援してもらうことが大事だということ。もうひとつは、そのリアルタイム性も大事だということだと思います。大企業の場合、発信する情報の確認に時間がかかるので、ユーザーがついてこないというデメリットもあるのかもしれません。

徳力  これはソーシャルメディアのアカウント運用においても同じことが言えそうですね。例えば、シャープさん(シャープのTwitterアカウント、@SHARP_JP)は、最初から弱みを見せることで応援されていますよね。



けんすう  はい。ただ、シャープさんの場合、あまりにアカウント運営が上手すぎて、「中の人」を応援しようという雰囲気になっているかもしれません。「会社を応援する」というより「シャープという大企業の中で、こんな発信しているこのアカウントの中の人がすごい」という感じになっている。

大企業だと、そのように、会社としての人気があがるのではなくて個人がフィーチャーされてしまうことがあります。大企業を応援するというのは、対象が曖昧になってしまうので、わかりづらいのかもしれません。

ちなみにキングコングの西野さんも、弱みが見えたときでなければ、サロンの会員数が伸びないと言っていました。「発言や行動が炎上して批判されたとき」や「えんとつ町のプペル美術館の建設のために土地を買ったとき」などは伸びるけれど、「このままいけば成功するだろうな」と思われると、その瞬間から伸び悩む、と。

徳力  応援する必要がなくなった、と感じられてしまうということですね。そうなると映画『カメラを止めるな!』のヒットも分かりやすい事例かもしれません。

けんすう  そうですね。無名の人たちが少ない予算で映画をつくったというストーリーは、応援しやすいですよね。パソコンでもAppleがマイクロソフトに負けている時代があったけど、今はもう完全にAppleが勝っているという雰囲気なので、逆に最近はマイクロソフトの方が応援されている感じがしますよね。

徳力  なるほど。そうなると、けんすうさんが言うように、すでに勝っている会社は無理にインターネット的な方法におもねる必要はない、という結論になるのでしょうか。

けんすう  いえ、常に負け続けるという状態にすることも可能です。それは、挑戦し続けるということです。今は弱い立場だけれど、誰かの応援があれば勝ちそうだと思われる人が一番応援されます。

徳力  それは、おもしろいですね。ソフトバンクの孫さんが一番分かりやすい気がします。掛け金を常に上げ続けていますよね。

けんすう  そうですね。ソフトバンクは、まだ世界では負けているけれど、孫さんなら勝つかもしれないと思われています。本当に負けてしまう人は、応援されないですから。

後編「けんすうが語る『広告論』 企業は、宗教のコミュニティづくりから学ぶべき」に続く
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