ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #04
けんすうが語る「広告論」 企業は、宗教のコミュニティづくりから学ぶべき
好きなクリエイターに「祈り」を還元できる仕組みを
徳力 アルは、マンガファンのコミュニティですよね。そもそも、けんすうさんは、なぜアルを立ち上げようと思われたのですか。
けんすう クリエイターであるマンガ家にファンの好きだという気持ちを届ける場所をつくりたいという思いがありました。ユーザーがネットへの書き込みで自己承認欲求を満たそうとすると、ネガティブな書き込みの方が称賛を受けやすいため、ネット言論全体がネガティブな方向になりやすいんです。
でも、ネガティブな意見ばかりだと、クリエイターは次の作品を書きにくくなってしまいます。その状況を変えたいと思って、マンガ家への「祈り」のような存在をつくろうと考えました。
徳力 応援というより、祈りなんですね。
けんすう はい。モーニング娘。のライブに行ったときだったかな。前の人が両手を合わせて拝んでいたんです。好きになりすぎると、もう反応なんて返ってこなくてもいいんですよ。拝むしかないんだと思って(笑)
徳力 たしかにマンガは、そういう存在ですよね。私も井上雄彦さんに会えたら、本当に拝むしかない(笑)。実際に、クリエイターの方から喜びの声は届いていますか。
けんすう けっこう来ていますね。いわゆる大御所のマンガ家さんからもご連絡をいただきました。まだWebサイトとしての規模は弱いのですが、月間2500万UUあったnanapiよりも10万UUしかないアルの方が声はすごく届いている感じがします。
徳力 そういう「質」を可視化できるといいですよね。企業のマーケティング担当者も、どうしてもページビューという「量」の規模の大きいサイトを選んでしまいがちです。
けんすう そうですね。だからAKBのCD販売と握手券を組み合わせた仕組みが秀逸なんですよね。握手券という質を提供しながら、CDの販売数という量もカバーしている。そして、オリコンランキングも独占しているわけです。
徳力 マンガが抱えている課題も同じかもしれませんね。一人で何回繰り返して読んだとしても、あくまで一冊分のお金しか私たちはクリエイターに返せません。
けんすう そうなんです。それを本当はお金の面でもクリエイターに還元できたらいいんですけどね。例えば、他のマンガアプリでは200円しか支払えなかったけれど、アルであれば1000円支払える。そうすると、例えば200円であればクリエイターに還元される印税は20円ですが、アルを通せばクリエイターに800円を上乗せすることができる、みたいなアイデアもあるかもしれません。
徳力 たしかにソーシャルゲームは、1人でいくらでもお金を払って遊ぶことができますが、マンガは何回読んでも著者に入るお金は1冊分でしかありません。その御礼や感謝のサイクルの制限をアルが突破できれば、おもしろいですね。
けんすう キングコングの西野さんは、美術館建設のために行ったクラウドファンディングのリターンのひとつとして30万円で1000人の子どもを美術館に無料招待できる権利を設定しました。
子どもたちから入場料をとるのは良くないけれど、単純に無料にするだけでは、子どもたちの遊び場にされてしまうことも懸念されます。そこで、子どもの入場料を他の大人が支払ってくれたことにして、子どもに喜びと同時に緊張感を提供することも目的としています。これがすごく売れたんです。
徳力 匿名でランドセルを幼稚園に贈る人の感覚に近いかもしれませんね。
けんすう はい。おそらく西野さんにただ30万円を渡す感覚とは違って、子どもたちにも貢献できて、西野さんにも喜んでもらえて、自分も含めて全員がうれしいお金の払い方なのでしょう。ここにも今後のサービスをつくるための、ヒントがあると思っています。
- 他の連載記事:
- ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 の記事一覧