NO MONEY BUT LOVE. 意義ある地域案件に、クリエイティブはどう向き合うか。 #03
「万事急須?」ペットボトル普及で衰退、バラバラだったお茶業界が踏み出した大きな一歩
2019/05/29
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プロジェクトメンバー主導のアイデアを実践していく。
「急須くん」の動画は、お茶業界で話題となった。そんなある日、静岡県のプロジェクトメンバーから「急須くんの急須をつくって小学校の卒業式でプレゼントしたい」という声があがった。もともと動画の企画を考えていた時からいずれ実物をつくりたいと思っていたこともあり、すぐに急須の産地、常滑にて「急須くん急須」の制作が始まった。
当初は動画の「急須くん」が粘土でできており、同じ土で作る急須の制作もたやすいだろうと考えていたが、甘かった。大まかな型が決まり、試作を繰り返す中、焼くことで色が変わってしまったり大きさも変わってしまったり、職人に正確なガイドをすることは困難を極めた。
さらには機能面でも「急須くんの注ぎ口」が通常の急須と比べるとかなり鋭角な設定で「湯切れが悪い」といった問題が勃発したり。急須界でも初めての挑戦で、なかなかの難産だったが、業界に新たなニュースをもたらす「急須くん急須」が完成した。表情を変えられるシールや、小窓から覗いているようなパッケージなど、今までの急須の概念を覆すものになった。小学校に1000個納品後、現在はお茶屋さんや一部のデパートやセレクトショップに置かれている。こちらのサイトからも一般販売をしているのでぜひ。こうして、プロジェクトの活動費を生むオリジナルプロダクトが完成し、お茶の間で活躍し始めた。
また、他の静岡県のメンバーから深刻な「放棄茶畑問題」についての言及もあった。「放置茶畑」はお茶業界が抱える深刻な問題。茶価の低迷により茶畑を維持できなくなったり、人手(跡継ぎ)がなく植えていたお茶の木を刈る事もできなくなったものの、税法上農地として土地を保有している方が経済的に有利であるという事情から放棄され、そのまま放置されてしまった茶畑が増加している。この問題は根深く、放置された茶畑が害虫や病疫の住処となり、近隣の畑へ影響を及ぼしたり、野生のイノシシの住処になり実作業を行う農家の身に相当な危険が及ぶこともある。農家たちは、連絡もなく放棄された茶畑を前にやり場のない怒りを抱えている。
この問題を解決することは、お茶の文化を見直し、急須で淹れる日本茶の普及にも繋がると考え「淹れよう日本茶プロジェクト」として解決への一手を打つことにした。
具体的には、メンバーの知り合いの放棄茶畑をクラウドファンディングで整備費用の支援を募り再生するチャレンジをした。その名も「放棄茶畑分譲プロジェクト」300坪の放棄茶畑を1坪単位で個人に所有してもらうというもの。支援者は茶畑を1年間所有(土地の権利は発生しない)し、茶畑を整備後、新茶時期に自分の茶畑から収穫された「自分のお茶」が届き急須で淹れる美味しい日本茶体験ができる。
昨年行ったクラウドファウンディングでの取り組みは目標金額に達成し、ちょうど昨年の今頃、様々な名前のついた「自分のお茶」が全国の支援者に届けられた。支援者からもたくさんの喜びの声や応援のメッセージが届いた。またクラウドファンディングを利用することで「放棄茶畑の問題」「急須で淹れる日本茶文化の低迷」を多くの人に知ってもらうこともできた。
この「放棄茶畑分譲プロジェクト」は、放棄茶畑を美味しいお茶がとれる茶畑として復活させると同時に、お茶を飲むことが少なくなった人たちが茶畑を保有する(期間中、畑の様子を常にレポートしたり現地にての見学ツアーも行った)という楽しさとともに、お茶を楽しむ習慣を取り戻すことができる生産者と消費者両者にメリットをもたらす意味深い活動となった。
しかし、実は今年、このプロジェクトの実施を見送った。というのもクラウドファウンディングへの誘因や支援の呼びかけは、ほぼ自分を含めた関係者たちのSNSなどからの呼びかけ、ネットワークにかかっており、昨年達成はしたものの思った以上に支援者が伸びず、個人の力で発信していく限界を感じたからだ。
今後は個人向けよりも企業に向けてこの放棄茶畑の再生を提案していきたいと考えている。企業の社会貢献活動や福利厚生として放棄茶畑の再生を考える。もちろんいつでも茶畑を見に行くことができるし、茶摘み体験だってできる。そんな活動に拡大していけば大きな問題となっている「放棄茶畑問題」の真の解決の糸口となるかもしれないと考えている。
ひとつ、何よりも嬉しかったことは、昨年再生した放棄茶畑から今年も美味しい新茶が収穫でき、お茶市場にカムバックしたことだ。