TOP PLAYER INTERVIEW #12

日広(現GMO NIKKO)創業者・加藤順彦 投資家としての流儀 「あなたの言うことが実現したら、誰が損をしますか」

 広告会社の日広(現GMO NIKKO)創業者で、2008年の社長退任後はエンジェル投資家としてシンガポールを拠点に活躍する加藤順彦氏。東南アジアで起業する日本人を対象に出資した会社の数は30社、累計で70社にも及ぶ。事業を始めたばかりのスクラッチやシードなどの段階で投資するというスタイルの加藤氏に、投資家としてのビジョンや日本の広告業界への思い、注目しているテクノロジーなどについて聞いた(全3回)。
 

“ウミガメ起業家”を日本に生み出したい


ToGEAR PTE. LTD. CEO 加藤順彦
 1967年 東京都生まれ。小学校2年生から大阪で育つ。1986年 関西学院大学入学。その後、学生企業のリョーマに参画。1989年 ダイヤルキューネットワークに参画。1992年 広告会社の日広(現GMO NIKKO)を創業。2008年 日広をGMOインターネットに譲渡し、シンガポールに移住。著書に『講演録 若者よ、アジアのウミガメとなれ』(ゴマブックス)など。

 私は、東南アジアで起業する日本人にフォーカスして、エンジェル投資を行っています。その原資となるのは、私が16年前に創業したコンタクトレンズ通販「LENS MODE(レンズモード)」です。日本だけでなく、オーストラリアやニュージーランドでも展開し、最近は東南アジアや北米にも進出するなど、順調に拡大しています。

 投資先を日本人に絞っている理由は、海外で活躍できる日本人起業家が圧倒的に足りていないと感じてきたからです。中国では、海外で活躍して母国に雇用や産業を持ち帰る人のことを「ウミガメ」と呼びます。日本にも、そうした人材を育てなければと考えてきたのです。

 ただ、私が支援している起業家が全員活躍できたとしても、100人にもいきません。そこで、日本人が海外で活躍できるというロールモデルをつくりたいと考えています。メルカリの代表である山田進太郎さんも「メルカリができるのならば、私にもできるんじゃないかと思ってもらいたい」とよくおっしゃいます。

 私も同じように、日本人起業家に「素敵な勘違い」をしてもらうことが大事だと思っています。日本人は、「自己肯定感の低い人」が多いのですが、東南アジアは「自己肯定感の高い人」の方が多くいます。そこで、東南アジアで活躍している“やんちゃな人”と日本人起業家を交流させていきたいと思っています。
 

投資をするかは、社長の「考え方」で決める


 ほとんどの場合、スクラッチやシードの段階で投資し、私自身がその会社の役員になり、無報酬で経営に参画します。社長と一緒にベンチャーキャピタルや事業会社などを回って資金を集めることが主な役割です。私が投資しているということで、他の投資家に安心してもらえることもあります。

 どのように投資先を決めているかと言えば、ほとんどはドタ勘ですが、社長がどのような課題に対して、どのような気持ちで解決しようとしているのかを重視しています。会社を経営していく中で、事業のピポットを繰り返すことは分かっているため、商売の中身よりも社長の気持ちを見ているのです。

 企業経営は、良いことばかりではなく、むしろひどいことばかりが起きます。内乱が起きて役員が2人辞めた、出社したら会社のiPhoneがなくなっていた、なんてことは日常茶飯事です。かつて私も社長として、さまざまな苦境に直面してきました。そうした経験からアドバイスをするのですが、相手の社長と倫理観がずれているとうまくいきません。なので、最初に気持ちをすり合わせていることが大事なのです。



 また、もう一つ重要なポイントがあります。それは、事業が破壊的であるかどうかです。私は目の前に座った起業家に対して、必ず、「あなたが話していることが実現すれば、誰が損をしますか」と聞いています。つまり、そのビジネスが誰の既得権や利益を破壊するかを見ているのです。

 例えば、ビットコインが世界の基軸通貨になったとしたら、すなわちドルが基軸でなくなるということを意味します。それは、ものすごい革命ですよね。それぐらいに、社会を変えたいという強い思いを持っていることも大事なのです。

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