マーケティングは、街にどう貢献できるのか #08

渋谷は川とともに発展してきた街。パブリックスペースの活用から見えた可能性

外資系マーケターから転身、あっという間の一年


 一般社団法人渋谷未来デザインという組織が2018年4月に立ち上がって1年が過ぎた。全く新しい組織が産声を上げてからまだ1年、あるいは、もう1年か、捉え方は人によって異なるが、私にとってはあっという間の一年だった。とにかく今までとは、全く異なる環境を全速力で走っているという感じだ。

 繰り返しになるが、この組織は渋谷に住む人、働く人、学ぶ人、訪れる人など、渋谷に集う多様な人々のアイデアや才能を、領域を越えて収集し、オープンイノベーションによって、社会的課題の解決策と可能性をデザインする組織として設立された。未来の「都市」の可能性と、渋谷を愛する人々が実現したい「夢」を叶えるため、その活動は渋谷で実証し、東京、日本、世界へ展開することで、社会全体の持続的な発展へつなげていくことを目的としている。

 何となく聞こえはいいが、誰かに与えられてプロジェクトを遂行するのではなくて、多くは自主的に発掘することが求められ、0→1の発想力、素材からアイデアを生み出し、それを事業として立ち上げ実行することが必要だ。PDCAのサイクルとして継続的に回っていくプロジェクトもあれば、実験として立ち上げ、次の新しい事業につなげる材料になることもある。
 
渋谷未来デザインWebサイト

 当初からTHINK > ACTIONということで、都市の未来に繋がるプロジェクトに対して、とにかく積極的に取り組み、現在は20以上のプロジェクトが進行している。従来のマーケティング領域を超えた事業の立ち上げを複数行っていくという、予想以上のチャレンジに日々直面していることは事実であり、だからこそ、私の経験が試されて面白いといってもいい。
 

公共空間は誰のためにあるのかを考える。


 さて、前年度の終わりに、この中間的な組織だからこそ力が発揮できる取り組みとして、公共空間の再構築を目指して、都市再開発で新しく生まれた渋谷川沿い水辺空間「渋谷リバーストリート」を活用した社会実験プロジェクト「WORK PARK PACK(ワークパークパック)」が始まった。
 
写真提供:Future Design Shibuya


 公共空間と聞いて思い浮かべる場所は、どこだろうか? 広場、学校、駅、病院、図書館、劇場、街路、公園、公民館などが代表例だろうか。また、渋谷のスクランブル交差点や代々木公園といった場所も公共空間である。ちなみにハチ公広場は、名前から「広場」というイメージが強いが、実は「道路」の分野に入り、道路法上の規制で管理されている。

 現在、都市の価値を左右する公共空間は、管理上の禁⽌⾏為にしばられがちで、一般市⺠の利活⽤が進まないという課題がある。公園はボール遊び・自転車・スケートボード・ペット放し飼い禁止で、ルールがたくさん書かれた看板が立っているのを見かけた人も少なくないだろう。

 そのような状況の中、利⽤者⽬線による空間の管理と活⽤の⾃律的な仕組み構築を⽬指す社会実験を新しくできた渋⾕川沿い空間で始めてみようとして、このプロジェクトは立ち上がった。日常と非日常の文化を創造する社会実験として、コミュニティ強化や都市生活の活性化に有効なパブリックスペース活用事例とデータ分析と評価を実行し、今後の街の発展やプロジェクトに反映させていくことが目的だ。

 企業のマーケティングリサーチでも、消費者の反応や意見を聞く場はあったが、実際に公共的な場所を長期間活用してリアルにその場にいる人や街の反応が見ることができる機会は貴重だ。

 その地域に住む人・働く人・学ぶ人・訪れる人がアイデアによってどう反応するかを継続的に確認することのみならず、新たな来訪者の機会を開拓し、新しい価値やサービスが生まれる可能性の追求と、実際の各自の意見を聞いたりすることできる。何より大事なのは、場所やサービスを使う側と提供する側両方の利用者目線による空間の管理と活用の自律的な仕組みづくりを考えて実験を行わなければならないことだ。誰のための空間なのかを常に忘れずに居ることも大事なのである。

 ちなみに自律的な仕組みは、行政と市民だけでつくれるものではなく、企業などの参画も期待され、海外ではその連携で公園運営がとてもうまくいっている事例が多々ある。そんなスペースづくりを日本ももっと導入すべきだという意見を耳にする機会が最近は多い。

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