マーケターズ・ロード 湖池屋 佐藤章 #03

キリン時代に体得した、業界を超えて通じる「掟(おきて)」 湖池屋 佐藤章社長

前回の記事:
キリンから転職した理由と、「熱狂的に愛されるもの」をつくる極意 湖池屋 佐藤章社長
 キリンで「FIRE」「生茶」など、ヒット商品を次々手がけるマーケターから、キリンビバレッジ社長に就任、2016年には一転、老舗スナックメーカー 湖池屋のトップに就いた佐藤章氏。飲料からスナック菓子へと活動の場が変わっても、市場にインパクトを与える施策を連発し続けている。

 キリン時代に培ったマーケターとしての考え方やスキルが、現在の佐藤さんの経営スタイルにどのように生かされているのか。そして、現代に求められるマーケター像とは何か、話を聞いた(第3回/全4回)。 
 

飲料カテゴリーで成功する100以上の「掟」


——キリン・湖池屋のキャリアを振り返って、現在のご自身に特に強く影響を与えているのは、どんなことでしょうか。
湖池屋 代表取締役社長
佐藤章(さとう・あきら)
1959年、東京都生まれ。82年、早稲田大学法学部を卒業後、キリンビールに入社。97年にキリンビバレッジ商品企画部に出向。99年に発売された缶コーヒー「FIRE」を皮切りに、「生茶」「聞茶」「アミノサプリ」など、年間1000万ケースを超える大ヒットを連発。2008年にキリンビールに戻り、九州統括本部長などを経て、14年にキリンビバレッジ社長に就任。16年にフレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月から現職。

 やはり、キリンで清涼飲料市場とアルコール飲料市場の両方を経験できたことは、私にとって大きかったと思います。

 まずは、清涼飲料からスタートし、「Volvic(ボルヴィック)」「アルカリイオンの水」「生茶」「午後の紅茶」「FIRE」「世界のKitchenから」「アミノサプリ」「小岩井」――と多様なカテゴリーの飲料を経験しました。

 日本人が意識している飲料のカテゴリーは、コーヒー・紅茶・お茶・ウーロン茶・乳製品・炭酸・果汁など、おおよそ9つありますが、私はキリンでそれぞれのカテゴリーで成功するための「掟(おきて)」を体得できました。

 「掟」は、ぎゅっと凝縮すると各カテゴリーで4~5点に絞られます。とはいえ9カテゴリーありますから、合わせるとその数は40~50点にのぼります。そして、これと同様にアルコール飲料にも「掟」があります。ビール・発泡酒・新ジャンル・ウイスキー・焼酎・チューハイ・浸漬酒、これらをクロスオーバーさせた新カテゴリーまで、それぞれにおける成功の「掟」を体得したのです。

 清涼飲料とアルコール飲料を全部合わせると、「掟」は100点以上にのぼりました。その中には当然、お菓子にも応用できるものもありました。

 湖池屋にきて、まず最初に「KOIKEYA PRIDE POTATO」という、企業の「顔」となる商品に着手したのも、実は「掟」に基づく判断でした。コーポレートブランドを代表し、社内外の人の気持ちをひとつにするようなプロダクトが必要だと考えたからです。
 
初代「KOIKEYA PRIDE POTATO」

 ちなみに、これも「掟」のうちのひとつですが、「他社に真似されやすいような商品をつくる」というのも、現代のスナック菓子業界の商品開発において大事なことではないかと考えています。

 最初にお話ししたように、通常は“金太郎飴”のように同じような商品が増えることは市場の魅力を低下させることになり、できれば避けたいことです。ただ、まだ存在していない、あるいは未成熟なカテゴリーの場合、マーケット全体の成長につなげられることがあるのです。

 例えば、「生茶」をつくったときには「〇茶」と名づけられた商品が、「アミノサプリ」をつくったときには「アミノ〇〇」「〇〇サプリ」と名づけられた商品が次々と追随してきたことで、マーケットが一気に拡大して「生茶」と「アミノサプリ」の売上を伸ばすことができました。

 この経験から得た「マーケットを拡大させたいなら、真似されやすい商品をつくる」という「掟」を、スナック菓子業界に適用させようと考えています。

 内食と外食の間にあり、細分化が進んでいる中食の市場をより大きくすることで、スナック菓子業界はもっと成長していけるのではないかと期待しているところです。

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