マーケターズ・ロード 湖池屋 佐藤章 #04
「次の湖池屋の柱をつくれ!」なんて堅苦しい言い方で、アイデアは出てこない 佐藤章社長
企業の成長と社員の自己実現は、一致させられる
魅力ある商品を開発するために、若手に対して「君はどんなものをつくりたいの?」と、尋ねるようにしています。
その問いを通して、企業としての長期的な展望と、社員個人のやりたいことを掛け算して、ものをつくることを教えたいと考えているからです。
経営と社員の自己実現を結びつけることを「難しい」と言ってはいけないと思います。「ティール組織」(編集部注:「自主経営」「全体性」「存在目的」を備えた、新たな組織モデルの名称)への注目が高まっているように、社員や顧客と一緒になって、社会課題を解決していく企業が勝ち残る時代です。
であれば、フラット型の組織をつくり、「私のやりたいことが、会社のやりたいことだ」という状態にする必要があります。
社員が意欲を持って面白がって取り組んだことが、結果的に社会の課題を解決し、企業としての価値を高めていく——そんなふうに企業経営を舵取りしていかなければなりません。
現在の湖池屋社内は、いままでの湖池屋とは一味違う“別邸・湖池屋”のようなプロジェクトが、同時多発的に次々と立ち上がっているイメージです。トップである私の役割は、湖池屋がお客さまに提供し続けてきた安心・信頼と、お客さまを良い意味で裏切り楽しませる新しい価値、その両者のバランスをとることです。
戦略さえしっかりしていれば、あとはブランドマネージャーのセンスや好みを最大限に活かして、自由にやってもらっていいと思っています。その代わり、面白いものをつくらなければ怒ります(笑)。
経営会議でも、プレゼンされた企画を「面白くない!やり直し!」と突き返すことはよくあります。逆に、面白いと思ったら、私も会長も一発でOKを出しますね。
面白いものが企画できたときというのは、それを実際に商品化する過程も、皆で寄ってたかって喜んで考えるものです。「次の湖池屋の柱をつくれ!」なんて堅苦しい言い方をしたら、出てくるアイデアも出てきませんよね。
社員の興味・関心の中に、経営のKPIを持ってくる。社員の自己実現の過程に、企業としての利益をあげるための仕組みを組み込んでいく。それが、湖池屋っぽいんじゃないかと考えています。
それは「触発」というのでしょうか……ラグビーって、あるプレイヤーが自分を犠牲にしてパスを出して、そうすることで生まれたディフェンスの隙間を、後ろから来た仲間がすり抜けてトライを取りに行くんです。この感じが、ラグビーをやっていた者としては、実に快感なんです。人を育てるということの喜び、面白さを感じています。