ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #番外編
アジャイルメディア・ネットワーク 徳力基彦が語る。取締役を退任する心境と、これまで
2019/06/19
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ブログを書いていたからこそ、今の「自分」がある
——徳力さんはブロガーという経験を通して、コミュニティやファンを大事にするという考えに至ったと発言されています。ただし、お話を伺っていると、もともと徳力さんには、そうした公平なコミュニティを志向する気質があったと思うのですが。
それは、違いますね。私は、完全にブログのおかげだと思っています。
余談になってしまうのですが、私はNTTを辞めたあと、ITコンサルティング会社に1年ほど勤めてから、企業向け情報共有システムを提供するアリエル・ネットワーク(2006年 ワークスアプリケーションズに合併)に、10人目の社員として採用してもらいマーケティングを担当しました。
そのとき、私はベンチャー企業における仕事の仕方に大きな勘違いをしていて、NTT時代と同様に、遅くまで会社の中で働いて上司にアピールしつつ、うちの会社のエンジニアの技術力の素晴らしさをメディアの人たちにアピールしていれば、いつかきっと周囲の大企業がその価値に気づいて、提携を申し込んでくれるはずだ、と考えていたんです。
でも、そういう問い合わせは当然あまり来なくて、毎日のように色んなベンチャー企業の提携が世の中で話題になっているのに、なんでうちには話が来ないんだ、と思ってたんですよね。
しかしある時、NTT時代の後輩が当時、日本のSNSの中心だったグリーに招待してくれて、そこで初めて「なんだよ、全員つながってんのかよ」ということに気がついたんです、恥ずかしながら。
私は前職でNTTという巨大企業にいたため、会社と会社の提携は、最適な相手をお互いに探しあって見つけて、条件面を交渉して締結しているという論理的な面しかないと思い込んでいたんです。
でも違いますよね。ビジネスも結局は、人と人のつながりから生まれるのに、私は自分自身でいろんな人とつながる努力を完全に放棄していたんです。
そこで考え方が180度変わって、ブログをがんばって書くようにして、積極的に外部のイベントにも参加して、自らをそうしたコミュニティに投げ入れるようにしました。その中で印象的だったのが、後に「ウェブ進化論」を執筆されてWeb2.0ブームの火付け役となる梅田望夫さんのブログのオフ会に参加したときの経験です。
それこそ私はNTT時代の感覚のまま、梅田さんという「講師」から「聴衆」として学ぶつもりで参加したのですが、参加者の何人かが私のブログを読んでくれていて、名刺交換の前から自分のことを知ってくれている、という衝撃的な体験をしたんです。嘘かまことか、梅田さんまでも私を認識してくれていたようでした。
それまでの私は、会社とお客さん、講演者と聴衆のように、すべてを上下関係で考えていたんです。聴衆である自分が他の人に認識されているという状況は、ありえないと思い込んでいたんですよね。でも、実はブログ上においては全員が発信者でありフラットです。
そこから完全に価値観が切り替わって、ブログ上のフラットなコミュニケーションにどんどんはまっていったわけです。
——徳力さんは、現在もいろいろなイベントに参加して、ネットワークを広げられていますが、その原点には「自分から新しいコミュニティに出ていこうとした決意」があったのですね。
当時は、自分が会社の役に立っていないことを自覚していたので、クビになるんじゃないかという恐怖を抱いていたんです。
NTTを勢いで飛び出して、ITコンサルティング会社を1年で辞めて、今度はベンチャー企業でクビになるなんて、絵に描いたような転落人生じゃないですか(笑)。
夜な夜な嫌な夢も見ましたし、NTTの同期に笑われるという恐怖もあって、何とかしなきゃと、あれこれと必死に試していた時期でした。
それこそアジャイルメディア・ネットワークに入ってから、当時お会いした人から十年ぶりに連絡を頂いて、仕事につながったこともあります。インターネットやSNSのおかげで、緩いつながりがずっと保てますよね。みなさん、忘れていると思うんですけど、そんな関係のつくり方はインターネット以前ではありえなかったわけで、すごいことなんですよ。
今の私があるのは、そうした、つながりのおかげだと思っています。
後編(6月21日公開) ブロガー 徳力基彦が語る、今後のこと。「会社に依存してしまっている人に、勇気を持ってほしい」に続く。
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