TOP PLAYER INTERVIEW #16

「ネット広告を“好かれ者”に」ヤフー ECDに中村洋基氏が就任。井上大輔氏と強力タッグ結成

 日本を代表するクリエイティブ集団 PARTY の中村洋基氏が7月2日、ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 エグゼクティブ・クリエイティブディレクターに就任した。PARTYでの仕事と並行して、ヤフーでインターネット広告を“好かれ者”にするというミッションを担う。中村氏は、どのようなビジョンを描き、具体的にどう行動していくのか。ヤフーに中村氏を引き入れた、同社 マーケティング本部長の井上大輔氏と対談してもらった。
 

ヤフー MS統括本部がクリエイティブディレクターを欲した理由

 
ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 中村洋基氏(左)、マーケティング本部長の井上大輔氏(右)

——中村洋基さんがヤフー マーケティングソリューションズ統括本部(MS統括本部)のエグゼクティブ・クリエイティブディレクターに就任した背景は? 

井上  まずは中村さんを口説いた、私から説明させていただきます。私はインターネット広告が嫌われていることに危機感を抱いています。そして、広告が嫌われないために、ヤフーとして2つのことに取り組みたいと思っています。

ひとつは、米国で発表された「Better Ads Standards(編集部注:ユーザーが不快に感じにくい、より良い広告基準)」などと同様、ユーザーにとって不快ではない広告フォーマットを採用すること。もうひとつは、嫌われないを飛び超えて「好かれる広告フォーマットをつくりたい」ということです。

その“好かれ者”としての広告フォーマットをつくるために、テクノロジーやデータを使いながら、クリエイターの力を借りたいと思っていました。そこで、ジョインしてもらうのは難しいだろうなとは思いながらも、日本を代表するクリエイティブディレクターである中村さんに声をかけました。
井上 大輔氏
ヤフー メディアカンパニー マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長

ニュージーランド航空にてオンラインセールス部長、ユニリーバにてeコマース&デジタルマーケティングマネージャー、アウディジャパンにてメディア&クリエイティブマネージャーを経て2019年2月より現職。Advertimesにて「マーケティングを別名保存する」、週刊東洋経済にて「マーケティング神話の崩壊」執筆中。NewsPicksアカデミア プロフェッサー。著書に『デジタルマーケティングの実務ガイド』(宣伝会議)

中村  私はこの業界で仕事をするようになって20年が経ちますが、井上さんが話した「広告をもっと“好かれ者”にしたい」に強く共感しました。私がずっと持っていたパッションと同じだなと。

20代の頃、私はPC上のリッチメディアバナーをたくさんつくって、広告業界で多少脚光を浴びていました。バナー広告にもこんなに楽しくできる価値はあるぞ、と。
 
当時、中村氏が手掛けたリッチメディア広告「Driver’s Eye」。バナー上で運転中、ケータイが鳴るのに気をとられると、突然クラッシュ。運転中の「ながらケータイ」防止のメッセージ。
当時からバナー広告の平均CTRは0.1%。つまり、1000人にひとりしかクリックされない「ウザい看板」だったんです。その状況をクリエイティブの力で変えたい。面白いバナーのクリエイティブをもってして、クライアントやメディアの文化を変えていこうと頑張っていたんですが、うまくいきませんでした。

その理由のひとつは、運用型広告という大きな波がきて予約型広告のひとつのクリエイティビティを上げるよりも、ターゲティングの精度を上げて、クリエイティブを量産してA/Bテストするほうがブームになったことがあります。

もうひとつは、地球の真ん中でただひとりのクリエイターががんばったところで世の中は変わらない、ということ。20代のかなりの時間をささげて世間からも評価された流れが、あっという間に変わってしまったのは悔しくもありましたね。

それで、仕事の内容をテレビCMやデジタルキャンペーン全体を担う方向にシフトさせていくようになりました。今回、井上さんから話をもらって、そのときの感情が胸を去来しました。「広告を“好かれ者”にするのは、難しい課題。でもデジタルならやりようはある!」と思い、その場で「ぜひ、やりたい」と返事させてもらいました。
中村洋基氏
ヤフー メディアカンパニー MS統括本部 エグゼクティブ クリエイティブディレクター・PARTY Creative Director/Founder

電通にて、斬新なアプローチのバナー広告を次々と発表し、やがてデジタルキャンペーン全体を手がけるようになる。2011年独立、4人のメンバーとPARTY設立。カンヌ国際広告祭、One Show、D&AD、NYADC、ロンドン広告賞、Adfest、文化庁メディア芸術祭など、内外300以上の広告賞を受賞、審査員歴多数。2019年2月よりヤフーに参画。

——中村さんは、どのぐらいヤフーにコミットして働くのでしょうか。

中村  PARTYや、電通デジタル客員としての業務もありますが、井上さんから、かなりの本気度をぶつけられているので、それに応えたいと思っています。これから、結果を出すためにヤフーのなかを動きまわるつもりでいます。

井上  我々も本気です。開発、営業、マーケティングを横断したプロジェクトをつくって動いていきたいと思っています。

中村  まずは好かれるメディアの定義から、ですね。井上さんは、どう思いますか。

井上  先日、ワンメディアの明石ガクトさんと、資生堂の小助川雅人さんとの座談会中に、明石さんが素晴らしいパンチラインを繰り出しました。「ラブレターを書くのにA/Bテストをしないよね」、と。

もちろん、これまで経験や勘だけで決めがちだった広告制作においてテストをするようになったのは大きな進歩なのですが、必ずしも100%の想いと自信がこもったものでなくても世に出してきたことで、犠牲にしてきたものも大きいと思います。ラブレターでBの方を渡された人の気持ちたるや(笑)。

中村  広告のメインストリームとしては、今後も効率化が進んでいくと思います。でも「クリエイティビティの揺り戻し」は、何度も起きると思います。

例えば、YouTuberやSHOWROOMなどが「距離の近い、気軽な動画」として脚光を浴びたかと思うと、「シン・ゴジラ」や「ボヘミアン・ラプソディ」など、フォーマットとして真逆でインタラクティビティなど存在しないすごい映画がクオリティの揺り戻しを起こします。

今はアプリのダウンロードCMなど、ダイレクトマーケティング偏重が極まっちゃって、どれも同じようなテレビCMに見える時期だと思います。私もつくっています(笑)。その揺り戻しをヤフーの新しいメディアから起こせたら最高ですね。

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