マーケティングは、街にどう貢献できるのか #01
レッドブルCMOが、次の仕事に「渋谷のまちづくり」を選んだ理由
2018/05/23
レッドブルで街と一緒に取り組んできた
様々なマーケティング活動を通じて、地域とも多くの議論を交してきた。レッドブルとのプロジェクトによって「街のイメージを変えたい」というリクエストもたくさんもらった。街からは継続的な開催を依頼されたが、予算やリソースなどの関係でできないこともあった。そのひとつに滋賀県での「Wings for Life World Run」や和歌山県での「Red Bull Cliff Diving」がある。
イベント開催には、お金が必要だ。企業のマーケティング活動として実現できることには限界があり、やはりリターンが少ないと却下されるケースも多い。自分が大きな決断をしなくてはならず、街に対して本当に申し訳ないとも感じた。
ただ、行政や警察、そして住民のサポートを全面的に受けて、同じ目的を持って、参加者の感動や住民の笑顔を体感できたことは、いまの私の方向性の基盤となった。
レッドブルの10年間で学んだことは、どんな活動も全ては「人」ということだ。商品を売ることも、最終的には「人」の役に立つことが大事だ。まさに「レッドブル 翼をさずける」で表現していることだ。
エナジードリンクを売るだけでなく、それを飲んで元気になり、次への一歩につなげる。商品をただ飲むだけでなく、ブランドが人とその人のアイデアに翼をさずけ、それが夢の実現の力になる。
これは街に置き換えても同じだ。街には多くのリソースがある。各地がブランドをつくり、その地域の人に誇りを持ってもらい長く住んでもらい、そして訪れる人には最高の体験をしてもらい、また訪れてほしいと思っている。
とにかく全ては「人」が中心だ。ブランドをつくり、愛着を感じてもらい、そこから口コミを広げて発信し、さらに多くの人にコンシューマーになってもらいたいと思っている。
6ヶ月行政チームと仕事をして感じたこと
2017年10月から現在、所属している新しい組織の準備室を手伝うことになった。区役所に通い、区の職員やまちづくりの専門家と向き合った。レッドブルで働き始めたときに感じた同様、知らないことばかりで、日々学ぶことが本当に多い。それ以上にもっと色々できるのでは、という思いも高まってきた。自分自身、渋谷のことを区役所の方や周りの人がここまで考えているとも想像していなかった。それよりも、この多岐に渡ったサービスの多さや、将来に向けて色々と考えなくてはいけないことがあるなど、多くの発見があった。
渋谷未来デザインの代表理事でもある、東京大学の小泉秀樹先生は、「渋谷は懐の深い都市だ」と言う。確かに、ここまでいろいろなことを行っている地域も珍しく、さらに成長したいという意識も強い。
「ロンドン、パリ、ニューヨーク、シブヤ」のように大都市と並ぶ街になりたいと区長も言っている。私もそのような想いに貢献したいという気持ちで、日々ワクワクして仕事をしてきている。
横浜出身の自分だが、親の都合で高校から東京に引越し、ここ数年は、渋谷の会社に務め、渋谷の住民である。つまり自分ごととして、この渋谷を捉える環境にもいることも確かだ。今までの経験や知識が多少なりとも街や社会に貢献できたら、人々を幸せにできることもあるのかもしれないと感じた。
渋谷はラッキーなことに、日本中のみならず最近は世界からも知られている。そのシティブランドをもっと進化させて、「渋谷の交差点」だけでなくて、渋谷全域の街の魅了を伝えて、ファンになってもらい、最高の体験をしてもらう空間にすることに多少なりとも貢献できたらと思っている。
それは渋谷だけではなく、ほかの街や地域とも連動して、社会全体の持続発展につなげることができたらと思っている。
私のようなちっぽけな存在が、社会を動かすなんておこがましい。ただ、このような個人がたくさん生まれることで、行政や学校、企業を巻き込んで、数年後には何か面白いことが生まれるのではないかと思っている。
マーケティングと同じで、商品が素晴らしいことはもちろん必要。しかし最終的には誰がどう取り組むのかが、とても大事だと思っている。渋谷区の基本構想でも伝えているが、“街の主役は人”であり、渋谷に興味を持っている人が集まることで、新しいことをつくっていけるはすだ。そこに、多少なりともマーケティングで培った経験をつなげられればと思っている。
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