売れるモノにはワケがある。PR目線で読み解くヒットの構造 #01
あのゴディバのバレンタイン広告が成功した理由を、PR目線で分析してみた
スマホシフトにより消費者行動が断片化し、ライフスタイルや価値観も多様化の一途をたどる中、特定の商品やサービスを「大ヒットさせる」ことはますます難しくなってきていると言えます。しかし、そうした環境下にあって、それでも「ヒット」は生まれています。そして、その背景には、巧みなPR戦略があるケースが少なくありません。
アダルトグッズブランド TENGAのコミュニケーション戦略を10年以上にわたって統括し、ブランドの存在感や一般社会における地位を急速に押し上げてきた松浦隆氏が、昨今のヒット商品・サービスを独自のPR目線で分析します。
「ジューンブライド」に「バレンタインデー」……PRとプラシーボ効果
ゴールデンウィークを過ぎると、決まってメディアに登場する「5月病」というワード。その起源は東大生とも言われています。長きにわたる受験勉強を経て、過酷な受験戦争を勝ち抜いて、夢の東大生となった翌月、ゴールデンウィークという初めての大型連休を迎えることとなります。
そんなときに陥る、いわゆる「抜け殻症候群」と呼ばれる状態が「5月病」です。ちなみに、「5月病」という病気は存在せず、病名としては「適応障害」となるそうで、今から50年ほど前から広まってきたそうです。
もちろん当時はそうした症例が多く見られるようになったことで「5月病」という言葉が生まれたのでしょう。しかし、現在はプラシーボ(※注)的に「わたし…もしかしたら5月病かも?」と、連休明け、なんとなくやる気の出ない自分に対してそう思い込もうとしている若者も少なくないのではないでしょうか。
※注 プラシーボ
本来は薬としての効果を持たない物質によって、得られる効果のこと。
さて、PR業界に目を転じてみると、プラシーボ効果を狙ったマーケティングやPRも少なくないのではないかと思います。プラシーボと言い切るのはどうかとも思いますが、言ってみれば「思い込み」。
カタチの曖昧なものに対し定義づけをすることにより世間が認識を始め、やがて既成事実として広く一般に浸透していくわけです。エビデンス(根拠)は抜きに苦肉の策から生まれたものや、新たなマーケットの開拓のために生まれたものまでさまざま存在します。
例えば、来る6月の「ジューンブライド」。梅雨時で結婚式を挙げるお客さまが激減する6月に、なんとか式を挙げてもらいたいと悩んだブライダル業界が目を付けたのが、ヨーロッパに伝わる習慣「ジューンブライド」(「6月に結婚式を挙げた花嫁は一生幸せになる」)であることは、あまりにも有名な話です。
そのほか有名な事例を挙げると、バレンタインデーのチョコレートが挙げられるでしょう。
年に一度、女性から男性に愛の告白をし、その際にチョコを渡す。日本のお菓子業界が仕掛け、いまや完全に定着した習慣です。
あらためて調べてみると、実は、神戸モロゾフ洋菓子店が1936年に「バレンタインチョコ」についての広告を外国人向けの英字新聞に出したのが最初と言われています。
バレンタイン企画「義理TENGA」ができるまで
「バレンタインの新聞広告」といえば思い出されるのが、今年のゴディバ(Godiva)の「日本、義理チョコをやめよう」という日経新聞の一面を飾った広告です。ご存知ない方は、こちらの記事をご覧ください。参考:「義理チョコをやめよう」ゴディバのバレンタイン広告に賛否の声 狙いは? (BuzzFeed)
話は一旦逸れますが、私もTENGA時代に「義理TENGA」というものをバズらせた経験があります。
文字通り「バレンタインデーに、女性から男性にTENGAを渡そう」ということなのですが、発端となったのは、部下である女性社員の友人の話でした。「毎年義理チョコを渡すのはつまらないから、今年はTENGA EGGを渡したところメチャクチャ喜ばれた」という……。「これは面白い!」と思った私は、「義理TENGA」というキラーワードとともに、2カ年計画でPRを開始しました。
1年目は、なるべく多くの事例をかき集めて、実態を把握。もちろん身の回りの女性には話をして、共感してくれた方々には事後報告を条件に商品を渡し、渡したときのリアルなエピソードや相手のリアクションを収集しました。
そうして2年目に、ブログなどで「義理TENGA」を紹介したところ、それがWeb記事となり、さらに「東スポ(東京スポーツ)」が取り上げ、その記事を今度はMXTVの「5時に夢中」で取り上げていただき、トドメにサザンオールスターズの桑田佳祐さんがラジオで「最近若い女の子の間で義理TENGAってのが流行っているんだって!?」と、広まっていきました。
今ではTENGAとしてその時期限定のオリジナル商品を発売し、毎年話題となっています。