ほろ酔いマーケティング談義 Tipsy Tips for Marketers #05

「テレビCM崩壊、せず」事実を冷静に見つめる目が必要 平成のマーケティングトピック その1

圧倒的なGRPの力で日本人のビール選びの理由を変える

 CMプラナーとして勤務した8年間で一番、広告予算が大きかった仕事がアサヒビールのスーパードライの仕事でした。既に鬼籍に入られましたが、『おざわせんせい』という書籍まで出版された博報堂の有名クリエイティブディレクターの小沢正光CDの直下で1年ほどの短い期間でしたが、この商品を担当するCMプラナーとして、米国ロサンジェルス、ニューヨーク、マイアミ、カナダ・バンクーバー、ニュージーランド・クライストチャーチ、そして果てはブラジル・アマゾンにあるイグアスの滝にまでCM撮影のためにロケで出かけました。

 この時の海外ロケ出張のおかげで、JALグローバルクラブ、ANAスーパーフライヤーズの会員に同時になることができたほどです。当時、会社の先輩からスーパードライは年間のテレビCM制作費だけで約10億円、CM媒体費はその10倍の約100億円程度は使っていて博報堂の扱いの中でもっと大きな単一ブランドなのだと聞かされたことがあります。

 もっとも当時の自分にはテレビCMの予算規模に心を配る余裕などなく、ひたすら来る日も来る日も、CMの案を考えて、Avidの編集室でビデオコンテつくり、プレゼンし、ロケに出かけて、再び編集室にこもりCMを完成させる、ということに忙殺されていて、この1年間のヒット曲やヒットドラマの記憶が殆どないくらいです。

 この時、小沢CDに指示されたことは、圧倒的なGRP(Gross Rating Point・延べ視聴率)の力、すなわちテレビCMのオンエア量で日本人のビール選びの軸を「鮮度」に変えるのだ、ということでした。そして「ビールは鮮度で選ぶ」というシンプルなコピーを元に、鮮度を感じさせる映像、例えばピチピチ跳ねまわる鯛やエビの映像、牛肉がグリルでジュっと焼き上がる映像、そして工場の製造ラインを凄まじいスピードでスーパードライの銀色の缶が流れていくシーンなどを組み合わせ、「鮮度のいいビールが美味しいビールなのだ」と視聴者に直感的に感じさせるための映像をひたすら考えて撮影して編集していきました。
 
スーパードライ発売10周年記念広告の撮影で、当時米国シニアPGAツアーで活躍中の青木功プロを米国フロリダ州に訪ねてCM撮影した際のスナップ。

 そして、私の8年間のCMプラナー生活の中で「テレビCMが生活者の消費行動に態度変容を起こした」と一番明確に感じることが出来たのがこの仕事の時です。そう私が確信できたのは、スーパードライが当時ライバルであったキリンラガービールを販売量で追い抜いて日本で1番売れているビールになったから、ではありません。なぜならそれはテレビCMだけの力ではなく、それ以外のさまざまな販売施策や経営努力があって初めて達成されたビジネスゴールだからです。

 ではなぜ、私がテレビCMの力で日本人の消費行動が変わったと実感することが出来たのか?

 それはこの時、輸入ビールの販売量が激減したからです。私が制作に携わった「ビールは鮮度で選ぶキャンペーン」の開始以降、バドワイザー、ハイネケン、カールスバーグといった海外ブランドのビールの販売量が突如大きく落ち込みました。「ビールを鮮度で選ぶなら、遠くはるか彼方、アメリカやヨーロッパで作られたビールは、ないよな」と思った人が日本中に大量に出現したのです。

 これはまったく競合商品とは見ていない商品群において発生した、意図しない、我々の仕掛けた広告キャンペーンの「副作用」のような現象でした。が、それだけにPOSデータを確認した時に、「ここまでの圧倒的なGRPを投入すると、テレビCMはこんな現象まで発生させることが可能なのか」と、空恐ろしく感じたことを覚えています。

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