ほろ酔いマーケティング談義 Tipsy Tips for Marketers #05

「テレビCM崩壊、せず」事実を冷静に見つめる目が必要 平成のマーケティングトピック その1

テレビCMは本当に効かなくなったのか?

 新卒入社から約8年間従事したCMプラナーを辞めて、当時ようやく徐々に注目されるようになってきていたインターネット業界に転職した私は、その後しばらくテレビCMとは縁のない生活を送りました。ですが、ネット媒体の運営サイドの立場として2000年代中頃に再会を果たします。

 当時、日本広告主協会Web研究会に勤務していたサイバーエージェント社として会員になっており、月例勉強会などの場でサイバーエージェントも参入したブログサービスのメディアとしての価値などを多くの広告主の方にアピールしていました。

 この頃、こうした会合で出会う大手広告主の宣伝担当の方がよく口にしていたのが「テレビCMが以前のように効かなくなった」という言葉でした。正直、この発言に触れた時に、自分自身ではそれが本当なのかどうか、実感することは出来ませんでした。何故なら、私はもはや大手広告代理店のCMプラナーとしてクライアント企業の商品のCMを日々実行する立場にはありませんでしたし、当時のサイバーエージェントにはテレビCMを打つ体力はなく広告主として、その効果を検証できる立場にもありませんでした。

 しかし、実感できているか否かは別にして、ネット媒体をプロモートする立場にある者としては、いわば従来型広告メディアの「絶対王者」であるテレビCMに対して大手の広告主の宣伝担当者が疑問を持ち始めている、という現象は、それが事実であろうとなかろうと、乗っからない手はない「おいしい噂」でした。

 「テレビに代表される従来型のメディアは時代遅れ。ネット媒体こそが未来です」と、ここまであからさまではありませんでしたが、最終的に聴衆の方にそう感じてもらうように設計したプレゼンテーションをあちこちでした記憶があります。

 そんな活動をする私にとって実に力強い書籍が平成18年(2006年)に出版されました。
『テレビCM崩壊 』 実にシンプルでかつショッキングなタイトルです。そしてこの一冊に続いて、『ネットは新聞を殺すのか?』 『2011年 新聞・テレビ消滅』といったような従来型のメディア業界がまもなく終焉を迎える、という論説の書籍や記事、そして論争があちこちで巻き起こりました。

 この流れにも乗って私がプロモートしたアメーバブログは広告メディアとして急成長し、サイバーエージェントの収益に大きく貢献することになりました。この現象は今振り返っても、広告収入に頼るネットメディア運営企業にとっても、私個人にとっても、実にありがたい神風でした。

 しかし、それは現実に起きていた事象だったのでしょうか?
 

「効かなくなったテレビCM」にこぞって出稿するネット企業

 平成という時代が31年目にして終了したわけですが、果たしてテレビCMは本当に崩壊したのでしょうか?私の意見は「NO」です。

 テレビCMは少なくとも平成の間は崩壊しなかった、と考えます。むしろ、テレビにとって変わるはずのインターネット企業、グーグル、アマゾン、ヤフー、サイバーエージェント、そしてDeNAやグリーなどの多くのスマホゲームの運営企業が、こぞってテレビCMに広告予算を投入している姿は「テレビCMは投資に対するリターンの期待値が他の媒体よりも高い」ということを示している何よりの証だと思います。

 ネット企業はユーザーの獲得数、そして獲得後のユーザーの離脱率や、彼らがもたらす収益効果などをDAU、MAU、ARPU、といった指標をもとに数値的に追う仕組みをもっており、彼らがテレビCMへの投資を続けているということは、これらの数値において効果があることをテレビCMが媒体として証明し続けている、と言えます。

 またアマゾンが現在放映しているアレクサのCMに出てくる、ガールフレンドに食べさせる肉じゃがのつくり方を母親に聞いている男性が気持ち悪い、といった意見がソーシャル上で話題になるのを見ても(参考 )、みんなの共通の話題にまだまだテレビCMがなれることを示しており、これもまた興味深い現象だと思います。

 結論。テレビCMは、今日の時点において崩壊、していません。

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