塾長対談 #01

足立光×伊東正明 対談:次の時代を担うマーケターは、どう育成する?

 日本マクドナルドのマーケティング本部長を経て、現在はポケモンGOで知られるナイアンティックでシニアディレクターを務める足立光氏が主宰する「足立光の無双塾」。“普段、考えないことを考え、普段、会わない人に会う”をテーマに、ビジネスや遊びに役立つ情報や人脈を共有し、参加者の視点を広げる場を提供している。

 また、P&Gでグローバルのバイスプレジデントを務め、現在は吉野家の常務取締役である伊東正明氏は、実践を重視したマーケティング研修プログラム「伊東塾」を開催。東京だけでなく大阪、北海道、沖縄でも開催し、全国のマーケターを育成している。

 共に塾長を務め、P&G時代の先輩・後輩でもある二人に、次の時代を担う人材はどうすれば育成できるのか話を聞いた。
 

理想像は、左脳と右脳の両方を使いこなせる人

左から足立光氏、伊東正明氏。
――今日は「塾長対談」ということで、ビジネスの現場で活躍する後進をどう育てていくのかについてお話を伺えればと思っています。

伊東 そんな偉そうなテーマで、しゃべれるわけない(笑)。

足立 うん、話せない。

――とは言えお二人とも「足立光の無双塾」や「伊東塾」で、それぞれコンセプトは違うものの、勝てるマーケターやビジネスパーソンになるための情報と場所を提供しています。なので、まずはお二人から、こういう人材になれれば良いのではないか、という理想像から伺えればと

足立 そういう意味で言うと、左脳と右脳の両方で思考できる人かな。

伊東さんの吉野家は、まさにそんな感じだと思うのですが、どのエリアやセグメントを狙うべきかという方向性を導き出すには、お客様の動向や過去の数値を分析したり、競合比較したり、きちんとレビューして次の展開を決めたり、左脳の論理的思考が必要なんですよ。

でも、それだけでは、ある程度すると、どの会社も同じ方向に進むようになってしまう。そこで、何をすればお客さんにもっと喜んでもらえるのか、新しいお客様の心を掴むことができるのか、というアイデアを右脳で考えるわけです。そのとき自分でもいいし、エージェンシーやビジネスの関係者といった周辺の人を含めてでもいいので、どうアイデアを出すかが大事になるんです。
足立光
ナイアンティック アジアパシフィック プロダクトマーケティング シニアディレクター

1968年、米国テキサス州生まれ。一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン、シュワルツコフ ヘンケル代表取締役社長・会長、ワールド執行役員 国際本部長等を経て、2015年より日本マクドナルドにて上級執行役員・マーケティング本部長としてV字回復を牽引し、2018年6月に退任。2018年9月より現職。I-neの社外取締役、ローランド・ベルガーのエグゼクティブ アドバイザー、スマートニュースのマーケティング アドバイザーなども兼任。著書に『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』(ダイヤモンド社)など。

伊東 僕もほぼ同じような話なんですが、「経験上、あのときこうだったから」「俺は、こっちがいいと思う」といった気分と記憶で物事を決めてしまうことが世の中に蔓延(はびこ)っています。

それを排除するために、極めて論理的に数字に基づいて判断することが大切です。ただし、そうやって具体的に課題が設定できれば、解決に向けて8割は終わったと一般的に言われていますが、そこからの2割が大変なんです。

そこに足立さんが言うアイデアが必要になると思いますが、僕はそこで大事になるのがロジックからアイデアまで完璧につくった案に対して、自分で違うディベートを吹っ掛けること。別のロジックで考えても本当に消費者が動くのか、長期的な視点ではどうかだったり。
伊東 正明
吉野家 常務取締役

P&Gにてジョイ、アリエールなどのブランド再生や、グローバルファブリーズチームのマーケティング責任者をアメリカ・スイスにて担当。直近までヴァイスプレジデントとしてアジアパシフィックのホームケア、オーラルケア事業責任者、e-business責任者を歴任。2018年1月より独立、ビジネスコンサルタント。吉野家 常務取締役。

足立 あえて反対意見を出す「デビルズ・アドボケイト(悪魔の提唱)」ですね。たしかに「これがいい」というアイデアが出たときは、そうではないという理論を考えてみて、自分のアイデアを反芻・自己批判して検証してみることが大切だと思いますね。

伊東 そうです。外国人と会議しているときに、「あえて、デビルズ・アドボケイトさせてもらうね」と、場を和ませながら反対意見を言うための常套句でもありますよね(笑)。

足立 これは、僕もやるな。部下やエージェンシーからアイデアが出たときに、あえて「それ、違うんじゃない?」と投げかけてみたりします。

伊東 なるほど。でも、僕は軽はずみに「違うんじゃない」と言うと、相手が「ハイ」と言って話が終わってしまうことがあって。だからできる限り、社長や自分自身に対してだけディベートをふっかけるようにしています。

足立 僕はこういう適当なキャラだから、みんな気にせず話してくれるんですよ。伊東さんは“偉い人”だから(笑)。

伊東 そんなことないですよ。僕も“超アプローチャブル”ですよ(笑)。どれだけ自分を消しながら話しているのか、足立さんにもその姿を見てほしい・・・。

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