ニュースをマーケティング視点で徹底分析 #01
スキャンダルや炎上は、マーケティングとして成立するのか
「炎上マーケティング」は本当にマーケティング?
約20年前、学生の頃、初めての海外ひとり旅で成田空港に赴き、動く歩道で搭乗ゲートに向かっているとき、スキャンダルで追い回される芸能人がいつも乗っているのはこれか、としみじみ感じ入ったものです。今日、空港でそうした感慨を覚えないのは、長い社会人生活で海外出張慣れしてしまったことに加えて、スキャンダルが誰にとっても、より身近な存在になってしまったからかもしれません。
誰だって、どんな企業だって、ソーシャルメディア上で炎上の憂き目にあう可能性があります。ソーシャルメディアに生息する個人として、ブランドを預かるマーケターとして、もはやスキャンダルは他人事ではありません。
しかしそれは同時に、かつては芸能人の専売特許だった「知名度」という武器を、一般の個人や地方のパパママストアでも手にすることが可能になったということも示唆します。
スキャンダルを戦略的に仕掛けていく「炎上マーケティング」なるものも存在します。「マーケティング」と付いていますが、果たしてそれは本当にマーケティングなのでしょうか。だとしたら、一体どういう意味でマーケティングとして成立するのでしょうか。
本稿では、現役マーケターの視点から、その疑問を紐解いていきましょう。キーワードは「認知」、そして認知の一種類である「非助成想起」です。
日本語で「認知」というと、単純にその対象を知っているかどうかになりますが、マーケティングでいう「awareness(認知)」は「aided awareness(助成想起)」と「unaided awareness(非助成想起)」に細分化されます。
これらを定量化するには一般的には調査を行い、「アウディQ2を知っていますか(助成想起)」「プレミアムコンパクトSUVと言えば、何を思い浮かべますか(非助成想起)」など、想起の強さで認知の質を測ります。
情報がクラッター化(夾雑化)した今日において、ビジネスの雌雄を決するのは、このうちの「非助成想起」です。
英単語を例に想起を体験してみよう
ひとたび最初に想起される集団に入ることができれば、消費者は検索などで積極的に探索してくれます。オウンドメディア(自社サイト)やアーンドメディア(クチコミ・レビュー)で待ち構えることで、提供できる情報量や獲得できるマインドシェア(心の占有度)において、想起されないブランドとの差を大きく広げることができます。シャンプーやソフトドリンクなどのFMCGでは、上記のような情報探索プロセスはほぼありません。しかし、店舗の大型化に合わせて棚が巨大化する中で、「あの商品はいくらかな」と、積極的に探してもらう有用性は変わりません。
では、この非助成想起は、どうすれば高められるのでしょうか。
ポイントが3つあります。それは「頻度」「体験化」「イメージの独自性」です。皆さんにも身をもって理解してもらうために、突然ですが、以下の英単語を暗記してみてください。
Conscription:徴兵制
覚えられましたか?
単語を覚えるための定番の行為は、復唱ではないでしょうか。「Conscription=徴兵制、Conscription=徴兵制……」と頭の中で、あるいは声に出して反芻する。これは「頻度」を担保することで、記憶への定着化を図るという方法です。
実際に使ってみる、というのも有効な戦略です。身近に英語を話す人がいれば、わざとらしくも会話に登場させてみることで、使用「体験」として記憶に焼き付けることができます。
最後に語呂合わせです。このConscriptionという単語はなかなか覚えにくいと思うのですが、それは「Conspiracy(隠謀)」や「Subscription(定期購読)」など、同じような接頭辞や語感を持つ単語が他にも、たくさんあるからです。
「Nerd(ナード/意味:オタク)」という言葉は覚えやすくないですか? それは語感が独特だからです。「コーンを救うリプトンを徴兵する(適当で、すみません)=Conscription」など語呂合わせで、この語感=単語の「イメージの独自性」を担保でき、それによって記憶への定着化を図ることができます。
「頻度」「体験化」「イメージの独自性」。実は「スキャンダル」は、この3つを完璧に満たしています。