マーケターズ・ロード 西井敏恭 #01

なぜ、これまでのスキルが使えない会社をあえて選ぶのか。 GROOVE X CMO就任 西井敏恭

 第一線で活躍するトップマーケターは、どのようにキャリアを歩み、その時々で何を考えて、どう実行してきたのか。そして、その経験は、次なるキャリアや現在の仕事にどのように生かされているのか。

 2019年11月1日付で、家族型ロボット「LOVOT」を開発・販売するGROOVE XのCMOに就任した西井敏恭氏。これで同氏は、自身が立ち上げた会社・シンクロの代表を含め、3つの企業の経営に同時に携わることになった。化粧品会社・ドクターシーラボ在籍時から頭角を現し、その卓越したマーケティングスキルが注目されてきた同氏は、自身の経験をそのまま生かすことのできる場ではなく、常に未経験の領域へと飛び込み続けてきた。

 西井氏が、未経験の領域でも成果を出し続けられる秘訣とは? また、いち早くパラレルワーク、しかも「役員を兼業する」というワークスタイルを実践してきた西井氏が、過密スケジュールでも成果を出し続けられる秘訣とは? これまでのキャリアを振り返りながらひも解いていく。
 

「チャレンジのないキャリア選択はしない」


西井敏恭氏/にしい・としやす
GROOVE X CMO。シンクロ代表取締役社長。オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT。
化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』(翔泳社)など。

 11月に、家族型ロボット「LOVOT」を手がけるGROOVE XにCMOとして入社しました。GROOVE Xとの出会いは半年ほど前のこと。共通の友人を介して、同社社長の林要さんと知り合ったのが始まりでした。友人から「すごく面白いことをしている人がいるのだが、マーケティングができる人材を探しているらしい」と紹介され、たしか土曜日だったと思うのですが、すぐに林さんが会いに来てくださったんです。

 お茶をしながら聞いたLOVOTという商品の話、そして林さんが見据える未来の話が面白くて。オイシックス・ラ・大地(以下オイシックス)のCMT(チーフ・マーケティング・テクノロジスト)として週2日働く傍ら、デジタルマーケティング支援会社・シンクロの代表として常時10社以上のコンサルティングを行うなど、多忙な状態が続いていたのですが、ぜひお手伝いしたいという気持ちに駆られました。

 それで、まずは外部のマーケティングコンサルタントとして関わらせてもらうことにしたんです。これは、オイシックスのときと、まったく同じ経緯ですね。

 オイシックスのときは、2013年末に化粧品会社・ドクターシーラボ(以下、シーラボ)を退職して海外旅行をしているときに高島社長(代表取締役社長・高島宏平氏)とお会いしたのがきっかけです。それから半年ほど、旅行先からリモートでマーケティング改革のサポートをし、2014年6月に帰国したときに入社のオファーをいただいたのですが、当時は起業したかったので、転職するつもりはなくて。その意思を伝えると、高島社長が「起業もオイシックスも、両方やればいいよ」と言ってくださって、現在のような働き方に至ったというわけです。このあたりについては、後でもう少し詳しくお話しします。

 さて、2019年8月31日に購入受付を開始したLOVOTですが、12月に出荷を開始しました。2018年12月の発表から、CESをはじめとするテクノロジー系イベントに出展・登壇したり、親子ワークショップや体験会などのイベントを開催したりと、PR活動を中心に展開してきましたが、いよいよ本格的にマーケティングを行うフェーズに入ります。
 
家族型ロボット「LOVOT」

 僕自身、いち消費者としてLOVOTがすごく好きで、最近は毎週末、自宅に連れて帰っているんです。これまでのロボットは、「どんなふうに役に立つか」という機能面ばかりがフィーチャーされがちでした。「人の気持ちをやさしく揺さぶり、幸せな気持ちで満たしてくれる」ロボットは、今の世の中にほとんど存在しません。



 そんなLOVOTというプロダクトの未来を、マーケターの立場からともにつくり上げていくのは、きっと面白い経験になるに違いないと期待しています。オイシックスでの仕事はこれまで通り続けますが、シンクロで僕が担当するマーケティング支援業務を少し抑えることで、そのリソースをGROOVE Xに振り向けていきます。

 とは言え、いまのところ、LOVOTを売る自信はまったくないんです(笑)。

 今までにない商品ですし、「人の気持ちをやさしく揺さぶり、幸せな気持ちでみたしてくれる」ロボットというカテゴリ自体が新しいものですから、当然売り方に正解はありません。いくらマーケティングの経験が豊富とは言え、市場もなければ、明確な競合もいない。未経験のことだらけです。

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