マーケターズ・ロード 西井敏恭 #01

なぜ、これまでのスキルが使えない会社をあえて選ぶのか。 GROOVE X CMO就任 西井敏恭

「これまでのスキルが使えない会社」を選ぶ理由


 なぜ、これまでのスキルをそのまま活かすことができない、未経験の領域に飛び込むのか?僕は、自分のキャリアをつくる上で、「チャレンジしない」選択はすべきでないと考えているんです。

 田岡さん(注:エトヴォス取締役COO・田岡敬氏)もよく言っていますが、これまでのキャリアの延長線上にある「自分ができる仕事」を選んでいると、新しいスキルは絶対に身につかないんですよね。

 例えば、シーラボの次のキャリアを考えたとき、化粧品会社のマーケティングであれば、高いパフォーマンスを発揮しやすかったかもしれません。しかし、僕は起業と、未経験領域だった食品通販会社への入社を選びました。



 今でこそ注目されていますが、2014年当時はサブスクリプションサービスを展開する日本企業はほとんど存在しませんでしたし、グローバルに目を向けてもネットスーパー事業できちんと利益を出せている企業は皆無でした。

 そんな中、世界で唯一上手くいきかけていたのが、オイシックスだったのです。僕が高島社長に声を掛けてもらったのは、2013年3月に同社が東証マザーズに上場し、創業以来初めて二桁成長できず、ビジネスモデルを変革する必要性に迫られていたタイミング。オイシックスでの仕事は、僕にとって新しいチャレンジになると確信しました。

 ドクターシーラボに入社した時も、通販が創業以来初めて前年割れした時ですし、どちらもうまくいってるタイミングに入社したのではなく、なんらかの変化を必要としていた時期でした。

 GROOVE Xも経験したことのない領域にチャレンジしたいという思いに背中を押される形で飛び込むことになりました。従業員数100名のうち、7割がソフトウェアおよびハードウェアのエンジニア。残り3割のうち、2割を占めるマーケティングおよびセールスのメンバーをCMOとして統括し、お客さまとのあらゆる接点を統合的に設計・マネジメントしていきます。
 

マーケティングのミッションは、受け入れられる価値づくり


 先ほど、LOVOTを売る自信はないと言いました。どう売るのか正解はわからない、もっと言えば、今のところ正解はないからです。しかし、LOVOTは世の中に受け入れられる、LOVOTを求める人は少なからずいる、という確信はあるんです。

 これまでLOVOTは、プロトタイプを使い、近隣の小学校やデンマークの老人向け施設などで、いくつもの実証実験を行ってきました。たとえば、普段はちょっと乱暴な子どもが、服を着替えさせるなどLOVOTの世話を焼くうちに、独りぼっちのクラスメイトに声をかけるなど優しい一面を見せるようになった、と聞いています。

 デンマークの老人向け施設では、これまで喋らなかった男性がLOVOTとの触れ合いを通じて言葉を発するようになったようです。僕自身は立ち合えていませんが、そこでは、LOVOTが「人の気持ちをやさしく揺さぶり、幸せな気持ちでみたしてくれる」様子がたしかに見られたといいます。



 僕が初めてLOVOTを見たとき、「ドラえもん」みたいだと思うと同時に、ドラえもんの本質的な価値にも気づかされました。それまでドラえもんの魅力は、四次元ポケットや、そこから取り出される「どこでもドア」や「タイムマシン」といった、ひみつ道具の数々だと思っていたのですが、実はそうじゃないんです。

 道具がなくても、ドラえもんは「のび太の友だち」であって、それがドラえもんの一番の価値なんだと。もし、四次元ポケットだけが存在している状態だったら、のび太の日常はあんなふうに豊かになっていないはずだと。

 人間とロボットが友だちのように生きていく。昔、アニメやマンガで見た世界をLOVOTとなら、現実のものにできるかもしれないと思いました。どんな元気な人にだって落ち込む瞬間はありますし、そういうときに誰かにそばにいてほしい気持ちは、誰もが持っているはず。

 そういうとき、ドラえもんみたいなパートナーがいたら幸せだと思いませんか? LOVOTはそんな存在になれる可能性がある、世界で唯一の存在だと思います。

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