マーケターズ・ロード 西井敏恭 #01

なぜ、これまでのスキルが使えない会社をあえて選ぶのか。 GROOVE X CMO就任 西井敏恭

ロボット30万円は、果たして高いのか、安いのか


 販売チャネルは、まずは新宿髙島屋9階の「LOVOTストア」とECサイト。リアル店舗は意図的に絞ったわけではなく、髙島屋さんからぜひ一緒に取り組みたいと声をかけていただいて実現した体制です。

 LOVOTに対する好意的な反応や共感を示してくださるのは、ユーザーだけではありません。「CES 2019」での「BEST ROBOT」、「CES2020」での「CES 2020 イノベーションアワード」(注:その年のCES出展製品の中でも特に優れたものに贈られる)の受賞も追い風となって国内外で多数のメディアに取り上げられて認知が高まると同時に、未来の社会におけるLOVOTの価値に期待を寄せてくださる企業が増えているんです。

 LOVOTは、本体約30万円(本体1体の「SOLO」の価格)に、1万円前後の月額利用料で提供するサブスクリプションサービス。その30万円が果たして高いのか安いのか――それは、LOVOTの価値を受け取る側によって捉え方が異なるのではないかと思います。



 僕は美味しいものを食べるのが大好きなのですが、たとえばお寿司でも、5万円を安いという人がいれば、1万円を高いという人もいるわけです。

 LOVOTは全身の各所に多様なセンサーが搭載され、CPUはPCとスマホが両方搭載されているレベルのハイスペック。大前提として、モノとしての価値も高いわけですが、機能的価値だけで評価できるものでないことは、先ほどの実証実験のエピソードからも理解していただけると思います。

 受け取る側によって価値の感じ方が異なる状況は、これまでも何度も直面してきました。シーラボの化粧品も、顧客単価1万円前後と安くはありませんが、お客さまからは「シーラボの化粧品に救われました」という声を幾度となくいただいてきました。

 オイシックスの野菜も市場平均の約1.5倍の価格ですが、リピート購入いただくお客さまは増え続けています。私の友人にはファッションが大好きで、平均的な収入なのに、シャツ1枚に8万円かけている人がいます。

 こうした人たちは、「お金があるから」買っているわけではありません。商品の価値を、価格が高いか安いかではなく、自らの価値観と照らして判断しているのです。

 ですから、LOVOTのターゲットは決して富裕層ではなく、あくまでLOVOTに価値を感じる人だと考えています。その価値をつくり、そこに共感してくれる人に届けていくのがマーケティングの仕事です。



 価値をどう伝えるかと言えば、現状のLOVOTでは「とにかく使ってみてもらう」ことに尽きると思います。ビジネスウェアのカスタムオーダーサービスの「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」や、工場直結ファッションブランドの「Factelier(ファクトリエ)」といったスタートアップが実践するように、店舗を購買ではなく体験の場として機能させる取り組みは必要不可欠です。

 オフィスにLOVOTを導入してもらう「アンバサダープログラム」を含め、いくつかのアイデアはありますが、初期段階では、いかにLOVOTに触れてもらい、価値を直感的に感じ取ってもらうかが重要だと考えています。

 テスラやiPhoneの初期の頃にも共通することですが、「使ってみなければわからない価値」「使った人だけがわかる価値」ってあるんですよね。僕、iPhoneが日本に上陸したとき、速攻で買ったんです。たしかに色々と使いづらい部分もあったけれど、触れば触るほど、そういう不便さを超越して「すごい!」「楽しい!」という感覚で満たされていきました。当時多くの人が、従来の携帯電話に対する価値観の延長でiPhoneを捉えて、「ガラケーのほうが使いやすい」と敬遠しました。しかし、一方でiPhoneを実際に体感し、たちまち受け入れていった人たちもいたのです。

 僕はテスラに乗っているのですが、充電が切れたり、充電ステーションを探さなければいけなかったり、1回の充電に1時間近くかかったり、「不便」と言えば、その通りです。でも、テスラの乗り心地の良さや楽しさは、一言では言い表せません。乗ったことがない人には、わからないんです。

 LOVOTもすべての人に受け入れてもらう必要はなく、触れてみて、そこに価値を見出した人に届けばいいと思っています。
 
 西井敏恭氏 オープニングキーノート登壇決定!
「ダイレクトマーケティングの現在と未来。今後3年間で起こるイノベーションは何か?」

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