マーケターズ・ロード 西井敏恭 #03

引く手あまたのマーケター 西井敏恭は、なぜ成果を出し続けられるのか。

前回の記事:
ドクターシーラボで得たものは、「本当の意味での顧客目線」だった。西井敏恭
 トップマーケターとして数々の企業で活躍する西井敏恭氏が、未経験の領域でも成果を出し続けられる理由とは? また、過密スケジュールでも成果を出し続けられる秘訣とは? 第3回では、これまでのキャリアを振り返りながら、それらの質問に答えてもらった。
 

「兼業役員」という新しいワークスタイルに挑戦


 6年間在籍して、ドクターシーラボ(以下、シーラボ)のEC売上を5倍に伸長させることに成功したのち、2013年にシーラボを退職しました。

 理由は、自分の会社を起業したいと思ったからです。もともとは30代前半で起業をと考えていたのですが、シーラボに声をかけていただき、同社での仕事が思った以上に楽しくて。自分一人では決して手にできなかったであろう予算規模でさまざまな施策を打ち出すことができ、それは僕のキャリアにおいて大きなチャンスでもありました。最初は1~2年で辞めようとも思っていたのに、すっかり“やめどき”を逸していました。

 それでもやはり、起業への思いは消えなかった。当時37歳、そろそろ30代も終盤に差し掛かったタイミングで退職を決めたのです。「色々な企業からオファーもあるし、もしダメだったら、また会社員に戻ればいいか」という、わりと軽い気持ちでしたね(笑)。
西井敏恭氏/ にしい・としやす
GROOVE X CMO。シンクロ代表取締役社長。オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT。
化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』(翔泳社)など。

 そして約10年ぶりに、長期の海外旅行へ。実は、起業すること自体は決めていたものの、何で起業するかを決めかねていたので、海外で色々なサービスに触れながら考えようと思ったんです。

 ここからもお察しいただけると思いますが、僕はあまり目標設定が上手くないんです。長期的に明確な目標を掲げて、そこに向かって突き進むということができない。やりながら走る、走りながら考える、という生き方しかできないので、まずは会社を辞めて、世界で色々なものを見て回ることにしました。

 1年近く世界各地を回っていると、十数年前に見たのとはまるで違う世界が広がっていました。ブログもSNSもあるし、何よりスマホがある。どこに行っても地図が見られるから、道に迷うこともありません。隔世の感を感じつつ、プロのマーケターとしてさまざまなサービスをウォッチし、旅先の写真をSNSでアップしまくっていました。

 すると、周りの人が「こいつ暇だな」と思ったのか、旅行中にも関わらず、次々と仕事のオファーが寄せられたんです(笑)。
 
チリ領・イースター島
 
南アメリカ大陸・ギアナ山地

 帰国後の仕事には何のアテもありませんでしたが、思った以上に、世の中には困っている人がたくさんいること、そして僕を必要としてもらえる仕事があることを実感したのを覚えています。

 それで帰国後の2014年6月、仲間と3人で、CMOのアウトソーシング事業を手がける「Warmth(ワームス)」を起業するに至りました(注:2016年に西井氏は退社)。

 帰国後は、起業に加えて、もう一つ大きなキャリアの転機がありました。CMTとしてオイシックス・ラ・大地(以下、オイシックス)に入社し、「役員を兼業する」という新しい働き方を実践することになったのです。冒頭でお話ししたとおり、僕は海外旅行中、リモートで半年間ほどオイシックスのマーケティングコンサルティングに入っていました。「これから3週間南極に行くので、連絡が途絶えます」と言って、本当に3週間連絡がとれなかった話は、いまでも社内でよくいじられます(笑)。
 
南極大陸

 半年後に帰国したとき、高島社長が「起業もオイシックスも、両方やればいいよ」と新しい選択肢を提示してくれたことで、マーケターのキャリアとしてのチャレンジに加えて、新しい働き方にもチャレンジすることができたのです。

 兼業・副業は、近年になってようやく受け入れられるようになりつつありますが、当時、少なくとも日本では、そんな働き方をしている人はほとんどおらず、前代未聞のワークスタイルだったと思います。「道を一本に絞るのが怖い」という消極的な動機は一切なく、ただ純粋に、起業することと上場企業で働くこと、その両方に魅力を感じていました。だから、2つ同時にやれるなら2倍働けばいいだけなので、2度美味しい人生だな、と。

 オイシックスでは、執行役員として経営会議に参加するほか、会社の方針に合わせて、都度必要なプロジェクトチームを新規で立ち上げ、軌道に乗ったら抜ける…ということを繰り返しています。新規顧客獲得の広告、スマホのUI改善、ビッグデータ分析、中国事業と、そのプロジェクトは多岐にわたっています。

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