トップマーケターが語る2020年の展望 #01
トップマーケターが語る2020年の展望【足立光、伊東正明、井上大輔、緒方恵】①
東京オリンピック・パラリンピックが開催され、大きな盛り上がりが予想されている2020年。トップマーケター16人が「2020年の展望」を語ります。第1回は、ナイアンティック 足立光氏、吉野家 伊東正明氏、ヤフー 井上大輔氏、中川政七商店 緒方恵氏による展望です。(全4回 ※50音順)。
マーケター・サバイバルの時代が到来
足立光
ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング
ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング
2020年にさらに加速しそうな点は、次の3点だと考えています。
企業ではなく個人:より多くの企業で副業が当たり前になり、業種を問わず、会社ではなく個人の名前で仕事をする実力と発信力のある方がさらに増えていくと思います。マーケターも、会社名を外しても仕事の依頼が来るような「自分自身をマーケティングする」力が、さらに問われていくでしょう。
反デジタル(効率)としての意思・コンテンツの重要性:デジタルが重要で伸びていくことは変わりませんが、最近の行き過ぎたデジタル礼讃や効率化重視の反動として、またcookieや位置情報の使用規制の強化から、どのメディアでどのように伝えるかではなく、企業やブランドの意思や価値観を、(ターゲティングするのではなく)誰の心にも響くコンテンツで伝えることの重要性が、改めて見直されるようになるでしょう。
マーケター・サバイバル:マーケティングが広範囲になり仕事が細分化されて「マーケター」が増えていく一方で、ここ数年のマーケティング・カンファレンスやマーケター隆盛の反動として、「過去に凄かった」や「面白いことを言う」ではなく「常に実績を出し続けてる」マーケター、さらに「特定分野の専門家」ではなく「業種を超えることのできる知見と大局観のある」マーケターがより評価され、そうでない「過去」や「名前だけ」のマーケターは淘汰されていくでしょう。
「人」を理解し、勝てる戦略立案をする基礎体力づくりが重要
伊東 正明
吉野家 常務取締役
吉野家 常務取締役
マーケティングを料理に例えると最も大切にすべきことは、来年流行る食材(トレンド)や道具(テクノロジー)を追い掛けることではなく「料理人として一流になるための基礎訓練をし続ける」ことだと思っています。どんな食材・道具を使っても「良い料理人」は美味しい料理を出すし、そうでない料理人は「そこそこの料理」しか出せません。ブランド・事業の継続成長を担うマーケターは、今年はタピオカ、来年はナタデココを扱って10年生き延びることはないでしょう。
お客さまに「また食べたい」といっていただける強いサービス・商品(例:吉野家の牛丼、あ、皆さん食べに来てくださいね)を設計・実行しブランドを育て、未だ試していただいていないお客さまが「試したい」と思うマーケティング施策を仕掛けるのが本来の仕事です。道具に精通し知識を積んだり、流行りの食材に片っ端から手を出す前に、マーケターとして「人」を理解し、勝てる戦略立案をする基礎体力づくりの1年にしてみるのも良いかと思います。
メディア業界全体で、構造的な変化が起こる年
井上大輔
ヤフー MS統括本部 マーケティング本部長
ヤフー MS統括本部 マーケティング本部長
2019年はテレビのスポット広告販売が大きく落ち込んだ。昨年対比90%を下回るレベルだ。「低迷時にいつも現れる救世主的な大口クライアントが最後まで現れなかった」という声をよく聞く。今年デジタル広告がテレビを逆転するのは確実だろう。一方、デジタル広告も安泰ではない。プラットフォーマーが推し進めるクッキー技術の利用制限はますます進むだろう。ターゲティングや効果測定について、抜本的な見直しを求められるメディアやツール提供者は少なくない。デジタルとマスを横断したメディア業界全体で、構造的な変化が起こる年であることが予想される。メディア関係者として、視聴者と広告主が何を求めるか、が最優先であることを肝に銘じたい。
PL視点ではなく、BS視点が重要
緒方恵
中川政七商店 取締役
中川政七商店 取締役
オリンピックもあり、その盛り上がりに対する打ち手を設計することは当然大事だが、PL視点になってないか?の自問自答が問われる年でもある。こうゆう時にこそ、自分たちが何者であるか、どうあるべきかというものをしっかりと見つめ直し、そこから逸脱することはしないという確固たる判断をいかにブレずに持ち続けられるのかが大事。PL視点ではなく、BS視点。それは金銭的な側面はもちろん、主にはブランドやビジョンのエクイティとしての側面。川の流れに流されるのではなく、どういう「橋」であるべきかに改めて向き合っていきたい。
※第2回 奥谷孝司、音部大輔、小和田みどり、鈴木健に続く