ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #13

衝撃的な上司との出会い、出張先での心停止。コーヒー豆のバイヤーがマーケターへ転身した理由

「心臓が止まった」生き方を変えた一大事件


徳力 徹底的にユーザー視点をたたき込まれたんですね。ただ、揖斐さんが衝撃的だったという理由だけでは、デジタル部門に異動しようとは思わないですよね。他に何か異動したいと思った理由があったのでは、ないでしょうか。

村岡 
そうですね。もうひとつ理由があったかもしれません。実はデジタル部門に配属される前、30歳のときに調達部の出張でトルコに行ったのですが、現地で急性心不全になり、心臓が止まって倒れてしまったんです。

かなり深刻な症状で、お医者さんからは「もうダメです」と言われて、日本にいる家族にも連絡がいきました。私の方は、もう毎日起きているのか寝ているのかも分からない状態で、目が覚めたらまだ生きていたという感じでした。そのとき「明日はないかもしれないから、やりたいことを優先しよう」と決意したんです。

徳力 
強烈な体験ですね。デジタルに出会ったときに、直観的に「これだ!」と思ったということですか。

村岡 
そうですね。あとは、病院でお世話になったトルコのお医者さんや看護師さんから「Facebookやっている?」と聞かれて、それをやれば彼らとずっとつながれるんだと思ったこともあります。実際、未だにつながっていますね。

徳力 
すごい話ですね。もうその逸話だけで十分記事になりそうです。


 

数値に囚われない感覚を大事に


徳力 
村岡さんは、マーケティング担当になられて以降、いろんなカンファレンスに登壇されていますよね。登壇し始めたのは、いつ頃ですか。

村岡 
2015年頃からです。配属されて半年ほどで、大きなマーケティングカンファレンスに呼ばれたんですよ。

徳力 
それは早いですね。外に出て話すことに抵抗感はなかったでしょうか。それに、日本では、会社として若いメンバーを登壇させることに抵抗感がありそうです。

村岡 
どちらも、ありませんでしたね。ネスレは外資系で組織がフラットなこともありますし、私自身も大学のときに、英語サークルでスピーチをしていた経験があったので、話すことに抵抗感はなかったんです。

徳力 
私はデジタルマーケティングにおいては、エクセル上の数値に囚われがちな人と、その先にいる人間までイメージできている人に、はっきり分かれるなと感じています。カンファレンスでの村岡さんの発言を聞いていると、データ分析をして成果にコミットしながら、人間もしっかり見ている印象です。なぜ、それができているのでしょうか。

村岡 
具体的な誰かをイメージしているんですよ。この商品であれば、実際に誰が受け取ってくれるのかをすごく考えて、エクセル上の数値と私の感覚にギャップがあれば、施策を変えたりもします。

徳力 
例えば、どういうことですか。

村岡 
少し前に、YouTubeの6秒動画でABCDの4パターンを制作してクリエイティブテストをしたのですが、AパターンのCPM(Cost Per Mille)が最も良かったんですよね。

徳力 
一般的にはCPMが良いというのは、しっかりユーザーが見てくれているということですよね?

村岡 
はい。でも、何か違和感があったんです。Bパターンの方が少しやかましい表現だけれども、私の印象にはすごく残っていて。それでYouTubeのブランドリフトサーベイにかけたら、やっぱりBパターンの方の結果が良かったんです。CPMの良さが必ずしもブランドリフトにつながっていないことを確認できました。

徳力 
Bパターンは冒頭で飛ばされることも多いけれど、最後まで見た人の気持ちが動いていたということなんですね。数字としての「結果」だけを見ていると、その違和感に気づけず、そのまま進んでしまうリスクがあった。村岡さんがその目線を持てたのは、先ほどのアンケートの経験があったからですか。

村岡 
それもあります。ただ、ルーツをたどればコーヒー豆の買い付けも同じだったんですよね。コーヒー豆の相場は、数字を見て予測するのですが、実はそれ以外の定性的要素がものすごく影響するんです。なので、定量と定性を考えるクセがついていると思います。

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