よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #02

「よなよなエール」は、ブランドイメージを管理ではなく共創する【稲垣聡】

ファンベース時代に変わる、ブランドイメージ形成のプロセス

 従来のやり方とは2つ違いがあるでしょう。

 ひとつはファンの可視化による効果です。従来は、それほど親しくない知り合いの趣味趣向を知る機会はほとんどありませんでしたが、SNS時代になりFacebookやInstagramを通じて、誰がどんなブランドを好んでいるのかを知る機会が飛躍的に増えました。ブランドのFacebookページを見れば、知り合いの誰が「いいね!」しているのかわかってしまいます。また、イベントなどで熱狂的なファンによるブランドコミュニティが可視化されると、直接見たり、SNSやパブリシティを通じて、ファンのイメージがよりリアルに、直接的に世の中へと伝わるでしょう。

 もうひとつは、ファンによる発信の増大です。特にインターネットでは、企業が発信するコントロールされたブランド・コミュニケーションよりも、ファンによる発信の情報量が多くなっていますし、ミクロレベルで見れば、知人からの投稿のほうが企業の広告より注目され、記憶に残るに違いありません。

 例えばヤッホーブルーイングでは、「よなよなエール」イメージ調査で、「昼」や「若い」といった、従来は意図しなかったイメージが徐々に高まっていることがわかっています。これは、日中から夕方に開催される数千人規模の屋外イベント「よなよなエールの超宴」の実施と、そのメディア掲載、参加者のクチコミ投稿の影響があるのではないかと考えています。
 

ブランドイメージは管理から共創へ

 このように、熱狂的なファンを育て、味方にする「ファンベース・マーケティング」を、ブランディングの観点からみると、ブランド・コミュニケーションの総量は増えますが、同時に自社のコントロール外の領域が大きくなることを意味しています。

 下手をすればブランドイメージの一貫性が損なわれ、希薄化してしまったり、熱狂的ファンの存在が排他的なイメージを与えるリスクもあります。

 デイヴィッド・ミーアマン・スコットとブライアン・ハリガンは、熱狂的ファンの力を活用したロックバンド「グレイトフル・デッド」を範にとり、ファンベースにおいてはマーケティングのメッセージをコントロールしてはいけないと主張しています。

 ただ実際には、完全にファンの自由に任せることはできないでしょう。こちらが意図したイメージを伝えてもらうように、真似したくなるコンテンツをつくったり、あるいはイベントなどのファングッズも有効なツールになるでしょう。そのブランドらしいモーメントにファンの発信を最大化するような仕掛けを行うというやり方もあります。

 またイベントやコミュニティでは、オープンな雰囲気づくりへのコミットも重要になると思います。例えば「よなよなエールの超宴」では、「よなよな月の生活」という年間契約会員向けの特別サービスはあるものの、初めての人も参加しやすい雰囲気づくりを心がけています。


 
ファンの自由に任せることで生じ得る弊害「排他性」を避けるために、イベントは初めての人も参加しやすいよう工夫を凝らしている。
 これにより、排他的な空気はなくなり、よなよなエールブランドが訴求したい「親しみやすさ」を、お客さま自身に発信してもらえるようになっているのです。いずれにせよ、ブランドイメージは管理するのではなく、ファンとともにつくり上げていくものであるという発想の転換が必要になるのは言うまでもありません。

 

(参考文献)
ケビン・レーン・ケラー(恩蔵直人 監訳)「戦略的ブランド・マネジメント第3版」東急エージェンシー 2010年

ゾーイ・フラード=ブラナー, アーロン・M・グレイザー(関 美和 訳)「ファンダム・レボリューション SNS時代の新たな熱狂」早川書房 2017年

デイヴィッド・ミーアマン・スコット, ブライアン・ハリガン(糸井重里 監修、渡辺由佳里 訳)「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」日経BP社 2011年

続きの記事:
「よなよなエール」流、熱狂的ファンの力を引き出す4つのトリガー【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】
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